第44話
その手に握られていたのは、柄と鍔のみで、肝心の刀身の無い「日本刀」だった。
まるで、子供が使い古して刃の部分が抜けてしまったプラスチックのオモチャの様だったが。
突雨は、感じ取っていた。
オモチャとはまるで逆……。加工も、装飾も、余計な物は一切無い。
「殺す」と言う1つの目的に、狂気的な程特化した刀。それが、烈白の握る日本刀だった。
(いや……刀身は「ある」……。実物では無いが確かに……。……まさか、あの柄と鍔のみの刀の目的は、それか……!?)
烈白の隣にいた楸は、思わず両手に握る拳銃の存在を忘れてしまった。
何故なら、楸には見えたのだ。
烈白の握る刀の刀身が。
気殺刀「烈白」。その真骨頂を、目撃した。
そこにあったのは、実体の無い刀身だった。
ハッキリと形を持っている様に見えて、風が当たれば霧散してしまいそうな透明感、不安定さを持ったその刀身の正体を、楸は直感した。
それは、長年このヤバイバに身を置いた楸にとって親友の様に離れることなく常に寄り添い。
仇敵の様に何度も息の根を止めてやりたいとさえ思った、それだった。
それは、殺気。
生物の放つ最上級の悪意であり、時に善意にもなりうるそれが、烈白の持つ「気殺刀」の刃を形作るものだった。
「殺気の……刃……」
もはや楸の目は、本来注視し続けなければならないはずの突雨を外れ、気殺刀の刃を一心に、焼き付けるように見ていた。
それだけ、おそらくこの1分間で練り上げられた烈白の殺気は、濃厚で、過激で、危険で、そしてこの空間の覇権を一瞬で握ってしまうものだったのだ。
(もし実物の刃を付けてしまえば……、おそらく、この圧力は生まれない……。何もない、ゼロから作り上げた殺気の刃だからこそ、ここまで……)
日本刀の柄と鍔を触媒として、己の殺気を限界まで練り上げ、増幅させ、整える。
今その刃が、静かに振るわれようとしていた。
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