第42話

「死に急ぐか……」

突雨はいきなり自分と楸の間に入った夜桜を見てもなんら動揺する事はなく、槍の軌道を夜桜の頭を狙ってねじ曲げた。

グニャリと、硬く、正に直立不動とも言える槍が、まるで鞭のように曲がる。

「ぬんっ!!」

しかし、夜桜の頭を狙った突雨の1撃は、あまりにも正確だったゆえか。

夜桜は頭を横にずらしてそれをかわし、右手で突き出された突雨の槍を掴んだ。

「むっ……!」

「おらぁっ!!」

突雨の驚愕の表情を浮かべた顔面に、夜桜の左拳が叩き込まれた。

「っ……おっ……!!」

硬い感触が、夜桜の拳に伝わる。

それも当然だった。

何故なら、夜桜が殴ったのは、薄く見えるとはいえ、正真正銘の甲冑なのだ。

それも、ヤバイバという異常な環境下で自分の身を守るための。

そうなればもちろん、その甲冑の強度、硬度は現実の物とは比べ物にならないだろう。

現実世界で喧嘩に明け暮れ、何人ものヤンキーの骨を破壊してきた夜桜の拳でも、その甲冑を破壊し、突雨にダメージを与えることは出来なかった。

「はぁっ!!」

そして、その代わりと言わんばかりに突雨が放ったのは。

左手で槍を握る事で固定された体を十分に捻り、勢いをつけた右の突き。

手刀ならぬ、手槍。

それは、吸い込まれるように夜桜の左脇腹に突き刺さり。

「ぐぷっ……!」

夜桜の内臓をかき回し、破壊したのであった。



(くそっ……!槍の突きのイメージがあまりにも強すぎたせいで、槍を止めてしまえばどこか無力化出来ると思い込んでしまっていた……!そりゃそうだ、あの本にも書いてあった。ギバイバは人より何倍も身体能力が高いって……。そりゃただのパンチも殺人級よ……)

正確に言えば、突雨が放ったのはパンチではなく抜き手に近いものであったが。

夜桜にそんな事は関係無かった。

「夜桜くんっ……!!」

楸は白鴎と香桜を構えて威嚇しているが、偶然か。突雨が夜桜を盾の様にして隠れる位置にいるため、迂闊に発砲することが出来ない。

「ぐ……ぐぐっ……」

「……!何……!?」

夜桜の左手が、自らの脇腹に叩き込まれた突雨の右腕を掴んだ。

「あー……、大丈夫っすよ楸さん……。いや、死にそうっすけど……」

夜桜の両足は、ガクガクと震え、立っている事が精一杯の様子であり、抜き手を喰らった脇腹からも絶えず出血している。

とても、いくら夜桜の体が丈夫とは言え、虚勢でも「大丈夫」と言える状態ではないだろう。

「貴様……何をした……!?」

突雨の表情が、先程とは比べ物にならない程の驚き、そして信じられない物を見る表情に変わる。

「何って……気合いだよっ!!!」

そしてその返答は……

甲冑の上からでも重く響く、夜桜の頭突きだった。



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