第55話

かなりゆっくり、そして、ボソボソとした喋りだったが、

何かこの少女には、この絶望的状況を打破する手段があるのだと、六畳ヶ原は察知した。

しかし、それと同時に六畳ヶ原の中にはある不安が広がっていた。

(……戦う……?私が?あの化物2人と……!?いやいや、ありえないだろう……)

素人目にもわかった、隠そうともしない重く、心臓にナイフを突き付けられているかの様な殺気。

威嚇などではく、最初からお前を殺しに来ている。六畳ヶ原はそう目の前で雄弁に、じっくりと、何時間も語られた気分だった。

(死ぬ……!やはり、どうあがいても私はここで……)

再び六畳ヶ原の思考が、少女の言葉で一時は冷静さを取り戻していた六畳ヶ原の思考はまた、負の方向へと傾き始めた。

「……死ぬ「気」ですか……?六畳ヶ原さんは……。まぁ、それもあなたの自由な「気」はしますが……」

少女の言葉は、六畳ヶ原に語りかけていると言う物ではない。明後日の方向を向いて、空気に溶け込ませる様にボソボソと喋っている。

「…………生きる「気」と言うのは……、そんな簡単に無くなってしまうのでしょうか……」

「…………」

その言葉は、空気の波を乗り越え、一直線に六畳ヶ原の耳へと届いた。



都会に半ば家出の様に実家から出ていた六畳ヶ原が久しぶりに実家に戻った時、

祖父は病院のベッドで横になり、鼻に管を入れられ、何とか命を繋いでいる状態だった。

初めて祖父の病室に入り、その姿を見たとき、六畳ヶ原は祖父の姿を、ハッキリ言って醜いと思った。

肌はシワだらけになり、潤いと言う物が無くなったその大地には、蛇の死体の様な血管が何本も浮き出ている。

目も十分に見えない。足も手も動かせない。言葉を発する事も出来ない。

そんな状態になりながらもなお生命にしがみつく祖父の姿がとても不様で、どうしようも無く滑稽な物に見えたのだ。

まるで狂言の様な。

羽をもがれ、自由に飛ぶことの叶わなくなった蝶の羽ばたきを見る様な。

途切れる寸前の命。

後で母親に聞くと、どうやら祖父は望んでこの状態にあるらしい。

何故?

六畳ヶ原には、その理由がわからなかった。

古ぼけて、手入れもまともにされていない。

骨董屋の倉庫に置かれた何の価値のない壺を、六畳ヶ原は連想した。

「………どうしてなんだ……ジジィ……」

そう口に出した六畳ヶ原の口内は、砂漠の様に乾燥していた。

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