第47話

一瞬で決着のついた地上での戦いとは裏腹に。

穴に落ちた破流雨と緑仙の戦いは、まさに泥仕合と化していた。

「しっ!」

破流雨の、連続突き。

それを緑仙はかわすこと無く全てその体で受け止め、即座に破流雨に右の掌底を放つ。

もちろんそれには先の突きで「貯蔵」された衝撃が乗っている。喰らえばただではすまない。

しかし、それん破流雨は、そっと緑仙の右腕に手を添えるだけで止める。

そしてその腕の中にある衝撃を、緑仙に逆流させる。

緑仙はその逆流させられた衝撃を反撃カウンターの要領で左腕に流し、さらに左腕で突きを放つ。

そしてそれを破流雨が逆流させ……、これが延々と続いていた。

しかし、そんな均衡状態にも、終わりが訪れる。

突然、どちらかと言えば戦いを有利に進めていたはずの破流雨の顔が曇った。

そして緑仙から少し距離を取り、

「……突雨が……、死んだ……?」

何か、信じられないといった声色で呟いた。

「何か知らないっすけど……、隙っすよ!!」

緑仙は、この数分の攻防で、どうやら力を逆流させる事が出来るのは破流雨が両手で緑仙の体に触れた時だと知っていた。

ならば、触れられる前に……、この貯めた衝撃を叩き込む……!

緑仙は一直線、最短距離で破流雨との距離を詰める。

「……夏が死に……秋が来る……。そして冬が……春はまだ……死ぬわけにはいかん……」

「全ての季節を踏み台にして、春は美しく咲くのだ……」

ぼそりぼそりと、低い声で何かを呟く破流雨。

緑仙の拳は、すぐそこまで迫っている。

そして、1秒後。

既に緑仙の拳はかわすことが出来ない破流雨に接近していた。

(当たるっ……!)

そう、緑仙が確信した時。

破流雨は、くるりと、緑仙に背中を向け。

そして全速力で走り出し、壁のくぼみに強引に指をかけ足をかけ。

決して美しいとは言えなかったがしかし、破流雨は緑仙の作り出した穴から脱出し、ついでに緑仙の攻撃も結果的にかわしてしまった。

「いや……今のはかわしたんじゃなくて……」

逃げた。

そのあまりに必死で、使用する技とは違い流麗さにかける逃げ様を見て、緑仙は思わず5秒程追いかけもせず、ポカンと立ち尽くした。

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