第46話

ゆったりとした長身の男が両手に構えた2つのカラクリから、高速で鉛玉が発射された時も。

目の前に現れた男に槍を掴まれ、頭突きをされた時にも感じなかった悪寒が、今の突雨の体にはあった。

槍を掴んでいた男はようやく倒れ、後ろにいる少女からもかなり距離を取っている。

少女の手にちらりと見えた、柄と鍔だけの日本刀。

例えばその刃がただ透明なだけで、実際近付けば自分を簡単に切り殺す事の出来る程の切れ味を持っていたとしても、その刃が一般的な日本刀の長さのそれと同じならば、確実に、今突雨はその間合いから外れていた。

だからこそ、驚いたのだ。

少女が一歩も動かず、その場で居合い切りの様な構えを取り、そして刀を振り抜いたのが。

突雨の目に写ったのは、ただただ虚空を撫でるだけの、本来刃があるはず鍔の面。

驚き、理解出来なかった。

そのせいだったのかもしれない。

突雨は、警戒とは裏腹に、一瞬ではあったがその場で硬直してしまった。

「うっ……」

見せるはずでは無かった隙を作り出してしまった事に、突雨は思わず呻いた。

しかし、その一瞬の隙に、長身の男は鉛玉を打ち出さなかったし、少女は距離を詰めてこなかった。

「…………」

瞬きをするにも満たない時間。

突雨の目が、長身の男の目あった。

その目は少し前の突雨と同様に、驚きに支配されていたが、それよりも

その目の視線は、突雨の胸辺りに向けられていた。

「……?」

つられて、突雨は自分の体に目を下ろした。

体に吸い付くようにして身にまとわれた、灰色の甲冑。

「……!!なっ!!」

そこには、その堅牢で重厚な冑を突き破り、体外に露出した突雨の内臓があった。

冑にはザックリと鋭い横一文字の傷痕があり、夜桜の渾身の頭突きでも耐えきってみせたその冑は、あっさりと破られていた。

「なっ、なぜ……!」

しかし、突雨の体はすぐさま理解した。

今自分に起こっている事を。


烈白の殺気に。

あまりにも強い殺気に当てられた冑が、自ら死を選んだのだ。

その結果、冑は砕け、そしてその冑を砕いた殺気は、突雨の体に届き。

そして当然、その殺気に当てられた突雨の体も死を選んだ。

自ら皮膚を破り、自ら出血し、内臓は自分達を体外に放出した。

「ごぶっ……、まさか……我の……せいなのか……?」

自ら神経は途切れ、自ら脳は働きを止め、自ら骨は砕け…………。

まるで成長の限界を迎えた大樹の様に。

突雨の体は、自ら塵芥となることを選んだ。



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