第6話

「蛟……、いや、蛟さん。……とても身勝手なお願いだとは思うのだが。僕はあのおじさんを助けたい……。そのために、あなたの「蛇苦蛇苦刀」の力を貸してもらえないだろうか」

「わかりました」

「!」

驚くほどの2つ返事だった。

僕の問いかけに、1秒と間を開けていない。

おそらく、彼女も外からの悲鳴を耳にし、見えていないものの、今外で起こっていることを予想するのは難しくないだろう。

僕より、よほどこの領域の事を知り尽くしているような彼女ならば。

この頼みが、バイバと戦ってくれと、そう遠回しに言っていることもわかっているはずだ。

それを踏まえての、即答。

「心配することはない……。私は「刀」……。つまり今、私はあなたの道具です。万が一私が「壊れた」としても、気負う必要はない」

僕の戸惑った顔を見てか、蛟は無表情でそう言った。

そして、彼女はゆったりと、食事に呼ばれた幼い少女のように立ち上がり、

僕が小さく隙間を作り、外の様子を覗き見ていた扉を蹴り飛ばした。

「っっ!!??」

コマ送りの映像の様な光景に、僕は一瞬自分の目を疑ったが、しかしその光景は紛れもなく現実で、

クルクルとその身を回転させながら地面と水平に飛んでいく扉は、木屑を散らしながら一直線に、

おじさんに馬乗りになっていたバイバの頭部に激突。そのまま頭部をえぐり飛ばし、地面にぶつかってバラバラと崩壊する。

「……?……?」

僕は何度も、自分のものより幾分か細い蛟の足を見ながら、どこからこの様な力が発揮されているのか。想像しようとしたが、僕の貧弱な頭では無理だった。

(ここからあのバイバまで大体20メートル程か。さらに下にいるおじさんに当てないようにコントロールを意識していたとすれば……)

それはもう、神業と言うしかあるまい。

または、荒業か。

頭部を飛ばされたバイバは沈黙し、少し体を震わせたかと思うと、そのままおじさんに重なる様にして倒れた。

「ひっ!ひぃぃぃ!!」

おじさんは自分を襲っていたバイバが絶命し、一瞬安心したような表情を浮かべたが、倒れこんだバイバの血を浴び、再び悲鳴を上げながら何とか立ち上がると、どこかに行ってしまった。

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