第5話
成績は、普通。
良くて中の上。悪くて下の上。
走りは自慢できるほどでもないが、遅くもない。
視力は両目0.8。
身長は171センチ。
普通だ。
普通に起き、普通に生活し、普通にご飯を食べ、普通に休息し、普通に寝る。
そんな一般人が、目の前で、自分より遥かに戦闘力の高い……、高そうな異形に襲われている、同じく一般人を見て、することは何か。
足は、震えて動かない。
両目は何故か今までに無いほどの視力を発揮し、目に写るものを少しも逃さまいとしているが、口は小さく呼吸するだけで動かせないし、扉にかけた手は扉の木材に接着されてしまったかの様に動かせない。
これは……不味いんじゃないか?色々な意味で。
あのバイバは、おそらくあのおじさんを殺した後で、直ぐにはこの場を退散しないだろう。
まだ人間がいるか、周囲を探すはずだ。
そうすれば、僕とこの後ろにいる少女が殺されるのは、時間の問題だろう。
……そう言えば、この少女は部屋の隅から全く動かないな。
じっと、移動する僕の方を見つめて、何か指示を待っている……、忠犬が居れば、こんな感じなのだろうか。
……もう死んでしまうかも知れないのだし、名前を聞いておこうか。
「……私の名前は、
諾諾?
「とう」はおそらく……、刀か?
蛟と言えば、何となく頭に浮かぶイメージとして、大きな蛇が思い浮かぶが……、
待て、「だく」の「だ」の字って、蛇っていう字なんじゃないのか?
ならば「く」は……、蛇……、猛毒……、まぁ、猛毒から「苦」と言う字を当てておこうか。
「ひっっ!!ひぃあぁあぁ!!助けてっ!!たふけで!!」
気付けば、男性は既にバイバに馬乗りにされ、顔面から突き出た刃で引き裂かれようとしていた。
……おそらく、僕には何も出来ないだろう。
しかし……、不本意ながら、完全に僕の「山勘」だが、この少女、蛟と一緒なら、この状況、何とかなるんじゃないだろうか。
彼女は自らのことを「蛇苦蛇苦刀」だと、そう語った。
彼女も、あのバイバと同じく、また……、「日本刀」なのではないだろうか。
ドラマや小説の見すぎか、頭をフィクションにやられたか。
しかし、今の状況は、正しくそのフィクションそのものだ。
ならば、この一縷の望みに、賭けてみてもいいかもしれない。
賭けさせていただきたい。
僕は一般人だから。
危ない橋を、どうやら一人で渡る勇気は無いようだった。
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