第4話

赤黒い、空。

夕焼けに染められた茜色の空に、深い黒を一滴流し込んだかのような、美しさと恐怖が混在する紫色に近い空。

目線を落とすと、ここはやはり廃村の様な場所だとわかった。

一定の間隔を置いてポツリ、ポツリとおそらくこの家とほぼ同じ外観なのであろう家々が点在している。

いやいや、そんなことより。

僕は落とした視線をぐるりと狭い隙間から辺りを見回し、悲鳴の主を探す。

いた。

簡単に見つかった。

括れたスーツを着た、50代くらいの男。

顔に深く刻まれたシワを歪ませ、まるで子供の様に涙を、ヨダレを吹き出しながら、時々後ろを見て、何かから逃げ回っている。

そして、数秒後

これが鬼ごっこなら、「鬼」の役回りであろう者の姿が、家屋の影から姿を表した。

雰囲気は、逃げ回っている男とさして変わらない。

おそらく同じ会社にいれば意気投合していそうな、白いYシャツを着た男。

しかしその足取りはとても不安定で、まるで仕事終わりに酒を飲み過ぎたサラリーマンの千鳥足の様。

「あれが……、バイバか……?」

「はい」

独り言の様に呟いた僕の言葉に、機械的に青髪の少女が答える。

しかし、これが飲み屋の近くならば、ふざけあうオッサン2人で処理出来たのだが……。

ここは生憎日常からは隔離された領域。

千鳥足の男の顔面に、卵の殻の様にパキリとヒビが入った。

「っ……!」

そこから現れた、人間の皮膚を突き破って、本来筋肉が露出するはずの場所から現れたのは、

ギラギラと隠そうともしない殺気を放つ、大量の日本刀の刃。

まるで触手の様にうねうねとその刀身をくねらせながら、逃げ回るもう一人のサラリーマンを狙う。

いやいや、刀の刀身って、くねらないだろ。

武士の持ち物なんだから、きっちり背筋を伸ばしているはずだろ。

「あれもまごうことない「日本刀」……。殺人に特化した形ではあるけど」

「嫌な所に特化したな……。しかし、そうなるとあのおじさんが不味いんじゃないのか!?」

「それは当然、その通り。……これが、この領域の「6割」の由縁です」

じわりと、僕の額に嫌な汗が滲む。

何か、心に嫌なものが、しこりが生まれてしまった様な。

(……あ、そうか)

僕は今、人を一人見殺しにしようとしているのだ。

関係の全くない、好きな食べ物も、女性のタイプも知らない、くびれた男を。



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