第33話

「ありゃ……、何か空気が凄い冷えてるんだけど……。こんなに寒いと、湯冷めしちゃうよねぇ」

「おお、楸さん。温泉はおすみになられたのですか?」

「うん、ありがとうね。待っていてくれて……。で、そちらの方々は?」

そう言いながら、ヒョロリと背の高い男は、夜桜と烈白を見た。

(久しぶりに、見下ろされたな……)

その男、楸の身長はおそらく190を越えているだろう。夜桜の身長をもってしても、軽々と見下ろされてしまっている。

パーマヘアーの明るい茶髪、太い黒縁のメガネの奥にある目はトロリと眠たそうにたれ、どこか見るものに気の抜けた印象を与えさせる。

「あなたが楸さんですか……。初めてまして、私は烈白。こちらのバ……カ……夜桜さんの刀をしております」

「お前今バカって言いかけた……。つーか途中で止めようとしてたのをわざと言いきっただろ。マジでお前敬意が足りてないよな俺に。……あー、すまん。俺は夜桜釜絵だ。ここに来てまだ1日もたってない。よろしく」

「うんー。よろしく。僕の名前は緑仙から聞いてるかも知れないけど、楸悠ひさぎゆうって言います〜」

そう言って楸はふにゃりと頬を緩め、ふらふらと右手を横にふった。

そんな楸の様子を見て、夜桜はなぜこんな気の抜けた人が1年もこの領域で生き残っていられるのか疑問に思ったが、数字は嘘をつかない。

(緑仙は「運と生命力」って言ってたが……、本当にそれだけなのか?)

「ん〜〜?」

ふにゃりと、楸は夜桜の視線に気付いたのか、不思議そうに首を曲げる。

ゆったりとしたその動作は、まるでナマケモノの様だった。

「あれ、そういえば烈白、夜桜君と蛟君にあのことを言ったの?」

「あ……、忘れてました」

楸の問いに、緑仙はあからさまにしまったと言う顔をした。

「部屋に入った瞬間、蹴りが飛んできましたからね、ショックで忘れていて当然です」

「おいおいおいおい烈白くぅーん?君は何時も1言多いよね!いやすまないとは思ってるんだが」

「あはは、大丈夫ですよー。まぁそれで、言ってなかった事なんですけど……」

そこで緑仙は言いにくそうに言葉を詰まらせたが

すっと夜桜と烈白のほうを、今までにない真面目な瞳で見つめ、

「やっかいな事に今現在……、2体のギバイバがこの町に存在しているのですよ」

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