第34話

夜桜は、自分の身体が内側からずっと重くなるのを感じた。

夜桜はまだ20を超えない年齢だが、そんな夜桜でもこの感覚は人生の中でも数回、特に少年時代に多く感じたことのある物だった。

自分の置かれている状況の危険性に、自分が無知ゆえ、鈍感なため気づかなかった。

いきなり首筋に刃物を突き立てられたかの様な。

いくら身体を堅牢に鍛えようとも、この感覚を消すことは、どうしても出来なかった。

「それにそのギバイバ、僕達も知らない奴等だったんだよね~。「志奈しな」とも「死死死さんし」とも違った」

「……つまり、新しく生まれたギバイバだと?それも2体……」

「ヤバイバさんが、「このままじゃ消される~」って、新しいのを作ったのかもね~」

「……そんな馬鹿な、そんな事をされたら、私達に勝ち目はありませんよ」

「烈白、この世には「フラグを立てる」という言葉があってだな……。その言葉今すぐ取り消……、いやこれ以上はやめよう」

「?、何をぶつぶつ言っているのですか?」

流行という物に疎い烈白にはおそらく分からないであろう不安を夜桜は自分の中で作り出してしまった。

誰にも言い出せず、うつむきながらぶつぶつと烈白に先の言葉を取り消させるか取り消させまいか。

1人で葛藤していた。

「まぁ……、そこで僕は君達に協力してほしいんだよね~。その2体のギバイバの討伐を」

「俺は良いぜ」

即答したのは夜桜だった。

「俺はまだこの領域に来たばかりでなんもわかんねぇが……、ギバイバを全部倒さねぇとここから出られねぇんだよな?だったらやるぜ。俺は早く現実に戻りてーんだ。もちろんお前にも協力してもらうぜ、烈白」

「……まぁ私はあなたの刀ですからね。わかりましたよ」

「つーわけでこっちは準備オッケーだ」

「はっはぁ~~、その判断力、恐れ入るね。……それじゃあまぁ、早速行こうか。ギバイバの下に。なぁに、こっちには無傷の刀とその所有者が2組いるんだ。勝てるよ~」

そう言って楸はにっこりと笑うと、温泉宿から出るため廊下を戻り始めた。

その背中はギバイバとの戦闘が数刻後に控えているとは思えないほどゆったりと脱力したもので。

光のない廊下の闇に消えていくその姿は、まるで実体のない幽霊の様だった。

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