第35話

温泉宿から、大体300メートルほど北に歩くと、そこには開けた空き地があった。

密集する住宅地をくりぬいて無理矢理整地した様な、どこか不自然さのある円形の空き地である。

その真ん中には円を描き終わったコンパスの様に立てられた1本の背の高い杉の木があった。

まるで、戦うために作られたコロッセオの様な空間。

そしてそこに、いた。

杉の木を挟んで、鏡映しのように。

全く同じくすんだ灰色の甲冑を全身に身にまとった(おそらく)男が2人。

兜にはカブトムシの様な長い角が生えており、甲冑も肌に吸い付くように男の身体のラインを浮かび上がらせている。

質の良い競泳水着の様でもあったが、しかしその圧力、甲冑の堅牢さは不思議と損なわれていないように、夜桜は感じた。

「「来たか「反刀」とその持ち主よ」」

男2人が全く同時に、全く同じ声色で。

口を開き、そこから出た言葉は、まるで反響しているようだった。

「「我等は「双双刀刀ふたえのかたな」、「突雨つゆ」と「破流雨はるさめ」である」

(……多分、右側が「突雨」で左側が「破流雨」……。ああくそ!ややこしいな)

「「援軍を連れてきた様だが、無駄である。いくら雑兵を増やそうが、我等の「死期折々しきおりおり」の敵ではない」」

「あ~まぁ確かに、君達のその能力は驚異だよね~~。僕達もさすがに「さっき」は敗北濃厚とみて逃げたから~~」

「!?楸さん!?俺それ聞いてないんですけど!?」

つまり、それはこの領域で夜桜達に味方する最強の戦力「日本刀」を、この2人は敗走させたと言うことだ。

(確かに考えてみれば、楸さん達だけで勝てる相手ならわざわざ俺達に助けをもとめねぇか……)

「ま、どうやらこの2人は、ギバイバの中でも「強い方」なのでしょうね」

夜桜の心を見透かしたかの様に、烈白が言う。

「で、どうするんすか楸さん?1人1殺で別れて戦いますか?」

「そうだね〜。みた感じ、彼らは2人で1つと言った所なのかな〜?それなら、別れて戦ったほうがいいのだろうけど〜」

「「こないのか?ならばこちらから行かせてもらおう!!」」

「っ!」

地面を蹴る瞬間さえも、同じ。

そしてその時わずかにたった砂埃ですら、同じ形、同じタイミングで舞い上がったように感じる。

「あ〜……、やっぱり別々で戦ったほうが良かったみたいだねぇ〜。しょうがない、とりあえず緑仙、初撃をとめてくれぇ」

「了解ぃ!!」

楸の隣に控えていた緑仙は待ってましたと言わんばかりに飛び出し、夜桜達めがけて突っ込んでくる破流雨と突雨の目の前に立つ。

「「我らの前に自ら立ち塞がるとは、良い度胸だ!吹き飛ばしてくれる!」」

「ははっ!お褒めに預り光栄っすけど……、吹き飛ばされるのは、あんたらの方っす!」

双方の激突に、そう時間はかからなかった。

そして夜桜は、破流雨と突雨の、ギバイバとしての能力を、目の当たりにすることになる。

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