第36話
「雨」
雨と言えば、小さな水滴が、同時に、かつ大量に、絶え間なくふりそそぐあれである。
その中に入ってしまえば、水滴をかわすことなど不可能だし、雨の強さによれば、一瞬で着ていた衣服は水浸しにされ、その日をブルーな気分で過ごすことになる。
そんな雨だった。
2つの雨雲の前に立ちはだかった1振りの日本刀を、飲み込んだのは。
「無駄だ」
口を開いたのは、今度は突雨だけであった。
突雨は両手を体の前で合掌するようにして合わせる。
そしてその手を離すと、そこから現れたのは1本の無骨な槍。
装飾などは全くなく、突雨の甲冑から生み出されたかのように、その色も地味なもので。
しかし、そんな事は関係無かった。
その槍を構えた突雨は、一直線に緑仙に突きを繰り出した。
腰をひねり、溜めた力を一点に集中させ、解き放つ。
ボヒュ!と、大気を穿ち。
耳をつんざく様な金属音が、辺りに響いた。
夜桜が見ると、そこには突雨の1撃を右腕で止めた緑仙の姿が。
「へっへー!軽いっす!!」
「確かにな、我の1撃は我々の中では1番軽い。せいぜい常人の体を突き通す事の出来る程度……。だが」
「!」
ボボッ!!
ボボボボボボボボボボボボボボッ!!!
先程の破裂音の様なものが、連続して響く。
それを発しているのは、やはり突雨の槍であり。
その槍を操る突雨の体、特にその上半身は、もはや視認することが出来ないほどの速度で動いている。
まさに、情け容赦なく体にぶつかる刺突の豪雨。
「我の速さ……。槍術は速さに特化したもの……。ゆえ、我の「雨」は、我々の中で1番の重さを持つ」
それは、まさに四季の中でも最も激しく、苛烈に降り注ぐ、「梅雨」の雨の様であった。
それに対するは、「反刀」の名を持つ緑仙。
彼女はその小さな体で突雨の全ての攻撃を受け止めつつ、反撃の機会をうかがっていた。
座頭の座頭市が「数」。
蛟の蛇苦蛇苦刀が「毒」であるように。
緑仙の「反刀」にも、通常の日本刀にはあり得ない異能があった。
それは「
相手からの攻撃のさいに与えられた衝撃を、その体の中に「貯蔵」し、好きなタイミングで打ち返す事が出来る。
それが緑仙の能力であり、その能力ゆえ、彼女はこのヤバイバの中でも屈指の防御力をほこっていた。
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