第37話

(ただっ……、私の反撃カウンターはその能力の特性ゆえ、1度見られると2度目からかわされる可能性がある……。1撃……、この1撃に、全てをかけるつもりで行かなくては……)

そして、そのタイミングはかなりシビアな物だった。

目の前で自分に槍を放ち続ける突雨の身体は、休むことなく動き続けている。

そこにはおそらく、これほどの突きを放ちながらも、どこかで緑仙の不意の反撃に対する余裕も、潜ませているわけで。

百発百中。

緑仙の反撃カウンターは、それに当てはまる物ではなかった。

緑仙のなかには、ぴちゃり、ぴちゃりと、小さなコップに水滴が落ち続けているような感覚があった。

1つ1つは小さな物だが、いずれその水滴はコップの中を満たし、溢れるときが来る。

落ちる水滴の大きさ、速度、間隔を常に調整し、表面張力の限界。

コップの縁の上で、薄い膜を張っている様な。

緑仙が求めている反撃カウンターの好機は、正にそのようなものだった。

(私の中に貯蔵できるダメージのキャパ限界まで……!!)

そしてその時は、すぐそこまで迫っていた。

未だ変わらず突雨の刺突の雨は、勢いを衰えさせてはいない。

(問題ないっ!!)

緑仙はここに来て、まるで地に根をはったかの如く動かさなかった足を、前に踏み込んだ。

おそらく脇腹を狙ったのであろう1撃をかわし、さらに前に出る。

緑仙と突雨の距離、およそ1メートルほど。

「とうっ!!しん!!けんっ!!げぇぇん!!!」

緑仙は力強く自らの能力発動を宣言し。

身体の中に蓄え続けたダメージ、その衝撃を右腕を介して突雨に打ち込もうと。

先ほどまで頭にあった雑念を振り払うかのようにして、緑仙はその右拳を突雨にたたき込んだ。

「そうか……、何かあるとは、思っていたぞ……」

「っ!!」

しかしその拳は……、文字通り、緑仙の中にある全てを乗せた拳は、突雨が後ろに少しだけ下がったことにより、かわされてしまった。

「なるほど……、反撃カウンターか。この槍で弾いてもいいが、念には念だ。確実にかわす」

あれだけ押していたのに。

あれだけ自分のペースと言って良い状況にありながら、突雨はやはり一点の油断もしていなかった。

「そして……、だ。破流雨」

「おう」

突雨が後ろに下がった事により、緑仙の前に少しだけ間空間。

そこに突如、あらかじめ予定していたかの様に、破流雨が現れた。

「その1撃……、利用させてもらうぞ」

破流雨は、突雨と全く同じ声色で。

そっと、突き出された緑仙の右腕の肘の辺りに左手を、そしてその少し下に右手を添えた。

流技ながしわざ、「時雨」」

それは既に、破流雨の間合いであった。

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