第38話
ビクリ、と。
最初に「時雨」の技の本質を理解したのは、やはり技をかけられた張本人である緑仙だった。
それは、今まで何百年とヤバイバで戦ってきた緑仙にも初めての感覚あった。
(右腕に乗せた「衝撃」が……、破流雨の手が添えられている場所で止まっている……!)
それはまるで、ホースの途中を潰し、中を流れる水を塞き止めているようなものだった。
(何だこれ……!軽く手を添えられているだけなのに、全く右腕を動かす事が出来ない……!!)
まるで、右腕の神経を全て止められてしまったかのような。
緑仙が全身の力を右腕に入れても、右腕は小さく震え続けるだけで、関節に至っては全く動かない。
「動かすことは……、不能。これは、そういう「技」だ。……そして」
「この技は、まだ終わりではない」
破流雨の緑仙の右腕に添えられていた右手が、少しだけ。
まるで、幼い少女の柔肌を触るかのような力で。
小さく、親指を緑仙の右腕にくいこませた。
「っづっ!!!」
そして、それだけで。それだけの動作に。
緑仙は、震えた。
右腕の中に止められていた「衝撃」が、まるでその鬱憤を晴らすかのように「逆流」しはじめた。
上腕を伝い、右胸部に入り、そして。
(……!!わかった!感覚でっっ!!この逆流させられた「衝撃」の狙いがっっ!!)
この衝撃は、私の心臓に狙いを定めて、逆流させられている。
「その
「おおおっ!!」
しかし、この絶体絶命の状況でも。
まだ、緑仙は諦めてはいない。
(幸いな事に……、返された衝撃は私の体の中にある……。これならば……!)
先程、体の中心に貯蔵していた
(感覚は……、心臓の右側に厚い鉄板を入れて、心臓を守り……。そのまま下半身にそれを流すっっ!!)
そしてその衝撃を流す部位は、両足。
「おおっ!!」
そして。
緑仙の両足から吐き出された突雨の槍の「衝撃」は、そのままヤバイバの地面を穿ち。
雄叫びの様な地鳴りと共に、緑仙を中心にして半径5メートル程の地面を抉りとった。
「何……!?」
それに驚いたのは、破流雨であった。
破流雨は、「時雨」の型に持ち込んだ時点で、半分勝利を確信していた。もちろん油断していたわけではないが。
無論、緑仙もこのヤバイバに5本しかない「日本刀」の1本だ。
「時雨」で衝撃を返されたとしても、何か回避する手段を備えている可能性も、考慮していた。
しかし、この光景は、破流雨の予想を遥かに凌駕していた。
(抉られた地面の深さは……、約10メートル程と言ったところか……。しかし、均一に、丁寧に掘られた穴の様にはなっていない……。おそらくこの地面を壊した衝撃が槍のものだったからだろうが……。子供がスコップで砂場に乱雑に掘った穴の様だ)
緑仙が地面に流した衝撃で出来た穴の中は、槍の衝撃というせいか、ガタガタに、不均等に削られており、まるで針山のようになっていた。
落ちてくる破流雨と緑仙を細く削られ、針の様になった地面が待ち構えていた。
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