第32話

「バイバやギバイバは、建物の中に入って来ることは出来ませんよ。何故かはわかりませんけどね」

冷ややかな目で夜桜を見下ろした烈白が淡々と言う。

「つまり、屋内に入ってきた時点で、味方である可能性が高いんです」

「いっや……。お前それを先に言えよ……」

「はっはっはぁーー!!烈白は無口っつーか、無愛想っつか、必要最低限の事しかし言いませんからねぇ……」

「……そんで、お前は何者なんだ?緑髪のガキンチョ。子供の時から髪を染めるのは良くないってどっかで聞いたことあるぞ」

「ははは。これは地毛ですよ。生まれた時からこんな色です。そして何者かと聞かれれば、私の名前は「緑仙りょくせん」。烈白と同じ「日本刀」の1本で、そちらは「反刀さかとう」と言いますぜ」

そう言いながら緑仙は、肩辺りまで伸ばした緑髪をかきあげ、ふふんと胸をはった。

ちなみに服装は、所々にメタリックな四角いアクセサリーのついた黒いTシャツと、膝の所が破れたジーンズである(本人いわく、かっこいいとの事)。

(しかし……、やけに現代的な格好だな。草鞋を履いていた烈白とは大違いだ)

「そういえば緑仙、あなたの所有者はどこに?」

「ああ、ひさぎさんなら、今ここの温泉に入ってますよ。「一時休憩、すぐ上がるから〜」って、言ってました」

「何か……、緊張感が無いやつみたいだな。その楸ってのは」

それとも、まだ自分がこの領域の空気に慣れていないだけなのか。

どちらにせよ夜桜には、温泉に入ってリラックスしようなどという余裕はまだ無かった。

「まぁ、私の楸さんはこのヤバイバに1年はいますからねー。まぁ他の人よりは余裕ありますよねぇ」

「いちっ……!、すげぇな、そりゃ……」

「生命力と運だけは人並み以上ですからねー、楸さんは。それではこちらも質問させてもらいますけど……、烈白とその所有者さんはなぜこんな所に?」

そうだ、と夜桜は気付いた。

夜桜は今いるこの場所が、ヤバイバに送り込まれた人間の集会所的存在である。と言うことくらいしか烈白から聞いていない事に気付いた。

「……1言で言えば、バイバについてあまりに無知な夜桜さんに、バイバの能力を知ってもらいたかったですよ。後はまぁ、どうやら錏毘が死んだようなので、その確認を」

「ああ……、確かに。久しぶりにギバイバが倒されましたよねー。ってか、錏毘が死んだって事は、ようやく蛟が動き出せるんじゃないですか?」

「確かに、なぜか蛟は錏毘にやたらと粘着されてましたからね。蛟の毒は強力な戦力になりますから、嬉しいですね」

「……ねぇ、俺が話についていけて無いんだけど。あと俺軽くディスられたよね?」

「「…………」」

「お前ら……」

さっと目をそらした烈白と緑仙に、夜桜の悲痛な叫びが刺さることは無かった。

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