第31話
「ふっ……」
夜桜は小さく深呼吸し、ゆっくりと手に持っていた本を本棚に戻す。
そしてそのまま音を殺し、息を殺し。
無駄な呼吸音1つ立てず、図書室の入り口の横。
今は扉が閉まっているため、扉を押して外にいる何者かがこの図書室内に入って来たとき、最初の死角となる扉の真横に、夜桜は身を潜めた。
(さて……、何が出るか……)
扉の向こうにいる者は、どうやらあまり警戒をしていない様だった。
無造作に、それこそ顔見知りの司書のいる図書室に入るのと同じくらい無警戒に。
ギギィ、と、その扉は開かれた。
「しっ……!」
夜桜に、迷いは無かった。
たとえ、扉の板を挟んですぐ向こうにいるであろう何者かの正体を、全く推測することもせず。
思いっきり、扉ごと何者かに蹴りをぶちかました。
「……!」
扉の向こうにいる人物の注意が、自分に向いたのを夜桜は感じた。
だが、もう遅い。
夜桜の右の剛脚は、決して貧相な作りをしていない扉を突き破り、その向こうにいた何者かにぶつかった……。
「っっ!?」
そして、異変に気付いたのは。驚かされたのは。
不意打ちというほぼ確実に仕掛けられた側が仰天するであろう行為において。
なんと、あろうことか「仕掛けた側」の夜桜であった。
「いっ……でっ!!!!」
夜桜の体を、激痛が襲った。
自分の体に帰ってきたのは、自分が蹴り上げた対象に加えた力と同じ力だと、夜桜はすぐに確信した。
夜桜の足を最初に、右腰、右肩、右腕、首、脳、そして左半身へと駆け巡ったその衝撃による痛みは、尋常なものではなかった。
(俺の蹴りって……こんな強かったのか……っっ!!やっぱ俺つえーー!!)
あまりの痛みに、夜桜はドシャっと尻餅をついて倒れ込んでしまう。
頭の中ではそんな冗談混じりの軽口を叩いていた夜桜だったが、しかし口から出るのは荒い呼吸音だけ。
おそらく、ここから立ち直るのに数秒間はかかるであろうと己の体の状態を察した夜桜は、敗北を覚悟した。
(くっそ……!すまん烈白っ……!!俺はここでお前とフォーエバーグッバイ……!!)
しかし、そんな夜桜を見下ろしていたのは。
「おっやー!?大丈夫っすか!?いっやーすいません!!驚かせちゃいました!?すいませぇーん!!」
クリッと大きく見開かれた可愛らしい目をした、緑髪の夜桜に手をさしのべる少女と。
「何をやっているんですか……、夜桜さん……」
信じられない者を見たと言う、冷ややかな烈白の目だった。
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