第30話

夜桜は、試しに本棚から1冊の本を取った。

表紙に題名は無い。

ザラリとした材質の赤い紙が表紙に使われており、丁寧に読まれているのかあまり破れたりもしていない。

ペラリ、と夜桜は1番最後のページを開いてみた。

普通そこには出版された日付だとか出版社だとかが書いてあるものだと夜桜は予想していたが、しかしそこには何も書かれていなかった。

(……まぁ、こんな奇妙な空間の物だしな……。細かい事を気にするのは止めよう)

そして夜桜は、パラリパラリのページをめくり、本の内容を確かめた。

「……何だこりゃ……」

そこに書かれていたのは、頭に蛸の触手を引っ付けた様な人型の化け物。バイバだった。

そしてそこにはその生体が、頭の触手はどのくらい伸びるのだとか、走る速さは平均してこの位だとか……。そういう事が、緻密に、かつ丁寧に。

読んだものが何の引っ掛かりも無く理解出来る様に、描かれていた。

夜桜はページをめくる手を早め、本の中盤辺りを開いてみた。

そこには、既にバイバの事は書かれておらず。

代わりにあったのは、「ギバイバ」と言う、バイバを越える異形の姿だった。

両腕が、巨大な甲殻類のハサミの様になっている者。

爪を伸縮自在の刃に変え、人を襲う者。

果てにはその体からバイバをほぼ無尽蔵に生み出し、使役する者まで書かれていた。

(ギバイバ……、確かバイバの上位種だったっけか。烈白あいつが言ってたな。しかし、こんな化け物揃いなのか。バイバが可愛く見えるな)

そしてよく見ると、ほとんどのギバイバを記したページの隅に「×」印が書かれていた。

(まぁ……、倒した。って所か。てなるともうギバイバってのはかなり少ねぇみたいだな……。後……2体か)

夜桜は開いていたページを遡り、残りのギバイバの姿。そしてその性質を確かめ様と、指を動かした時


ギシリ


と。

廊下の床の木が軋む音が、夜桜の耳に届いた。

小さく、か細い音。普段ならネズミや猫が廊下を踏んでもなるような生活音であったが。

ここはヤバイバであり……、それゆえその音は、警戒に値するものだった。



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