第29話
「確か……、こちらでしたか」
烈白に案内され……、と言うよりは半ば1人でずんずんと歩いて行ってしまう烈白についていく形で、夜桜は荒んだ町を歩く。
店の前には、商品が置かれていたのであろう棚があり、そこに今はいくつか食器の様な物が置かれている。
どうやら木製の様で、縁の部分が割れていたりしているが、まだまだ使えそうなものだった。
「……お、当たりですね。着きましたよ」
烈白は15分ほど歩いた後、1つの建物の前で足を止めた。
夜桜が顔を上げ、その建物の外観を見ると、3メートル程上にデカデカとこの町どこからでも見えそうな大きさの看板が設置されており、そこには
「温泉」
と、何文字も入りそうな大きな看板を2つの文字が占拠している光景があった。
「明らかにデザインミスしてるだろこれ……」
「私は良いと思いますけどね。必要最低限の情報しかないので、分かりやすいと思います」
「まぁ、ある意味目立ってるのか……?」
「ちなみに、温泉に入りにきたわけでは無いですよ。まぁ、入ろうと思えば入れますが。お湯も沸いてますしね」
「……何か、このヤバイバって場所の事がどんどん分からなくなっていくわ……」
若干予想外の所で困惑する夜桜を置いて、烈白はカラリと温泉の入り口を開いた。
(ガラス張りか……。枠は俺が最初にいた家の障子のやつとほとんど変わってねーな……)
入ると、そこには奥に長い長方形の箱が横に4列並んでいた。
「まぁ……、靴入れだろうな。普通に区分けされてるわ。縦1列に1〜10、それが15列……、ってところか」
「まぁ、ありがたく使わせてもらいましょうか」
そう言いながらすっと烈白は自分が今まで履いていた草鞋を脱ぎ、適当な靴入れにポイと入れた。
「……え?お前草鞋だったの?ワラジストだったの?」
「ワラジストってなんだ。別に草鞋を愛用しとるわけではないですが、これしか持ってないんです。もうかれこれ50年の付き合いです」
「えぇ……。それ結果的に愛用してるじゃん……)
しかし、と夜桜は思う。
(草鞋でこの町までの道をあんな速度で走ってたのか……。いよいよただの幼女って線を捨てなきゃいけねぇな……)
「……夜桜さん今めちゃくちゃアホな顔してますよ……」
おそらくこの温泉は、同時に宿としても機能していたのではないだろうか。
「温泉宿」と言うやつだ。
夜桜は、異様に長々と続く廊下と、やたらと多い部屋数を見てそう考えた。
夜桜が9回ほど同じ様な壁を見たなと感じた時、烈白が足を止めた。
そこにあったのは、「図書室」と書かれた木の板がかけられた扉。
烈白が、その扉を開ける。
扉は軋むこともなく、滑らかに開いた。
どうやら、長く放置されていたものでは無く、定期的に使われているらしい。
夜桜が図書室に入ると、やはりと言うべきか。
夜桜の鼻を支配したのは、大量の本の匂い。引いては紙の、本棚の木の。
一室が、本に支配されている。独特の空気感だった。
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