第24話

暗い、暗い、漆黒に包まれている。

手に残ったのは、ドロリとした生暖かい液体。

その正体は、もはや見るまでもないだろう。

血だ。

赤々とした、鮮血。

自分の中には、まだこんな鮮やかな物が流れていたのかと、錏毘は若干の驚きと共にそれを見つめていた。

錏毘の体には大量の細い刃が突き刺さり、まるで剣山の上に置かれた人形の様に、錏毘の体を持ち上げている。

そのため、錏毘の体から流れる血は止まる様子を見せず、それどころか時間がたつにつれてその出血量も多くなっていた。

錏毘が目を動かせば、そこには自分の両手を見つめ、ガタガタと震える青年の姿。

(……そうか……、今のが走馬灯っつーやつかぁぁ……。まぁ、見て楽しいもんじゃなかったが……)

体は既に石の様に動かなかった。比喩等ではなく指先に至っては錏毘の意識を置いて既に事切れてしまったかのように動かせない。

(「感触」がきたか……。人の肉を切り裂いた感触が……。生暖かい血液に触れた感触が……。この様子だと……、どうやら切ったのは初めて……みてぇだなぁ……)

くく、と錏毘は心の中で笑った。喉を震わす力も、もはや無かったからだ。

(くく……惨め惨め……。最後の3体になるまで生き残ってきた俺が、こんな素人に殺られるとは……。まぁ、蛟に殺られるよりは幾分ましだが……)

錏毘はもう一度、最後の力を振り絞り、自分の周りをグルリと一望した。

(は……、は……。……まぁ、こんな俺にしちゃあ……、良い死に場所なんじゃねぇかぁ……)

他人より少し上の位置で、自分を殺した人間を見下ろして死ねる。

そして

(まぁ……、1人じゃねぇだろぉ…………)

こうして、錏毘はヤバイバの地に眠った。



薄皮を突き破り、太く厚みのある内臓をかき分け、再び薄皮を突き破り、外に出る。

その感触が数千、同時に僕の手を襲った。

錏毘の体温を、この上ないほどダイレクトに感じた。

ぬるま湯の様に心地よい暖かさを持っていた物が、一気にその温度を失っていった。

そして僕の刃にねっとりと血が絡み付き、滴り落ちていくのもわかった。

見殺し所では無かった。

僕は……、何を殺したのだ。

小さな昆虫を潰してしまった事は、誰にでもあるだろう。

蚊を、蝶々を、おたまじゃくしを、殺してしまった事だってあるだろうし、人によってはそれより大きな者の命を奪ってしまった人もいるかもしれない。

しかし……、「それ」と「これ」は、全く別格だった。

何が別格だったのかと聞かれても上手く答えることは僕に出来ないだろう。

ズオリと、何か重い者をいきなり背中に背負った気分だった。


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