第48話
そして、地上。
塵となった突雨の亡骸に、近付く者があった。
穴から這い上がってきた破流雨だ。
四肢で地面を掴み、物凄いスピードで。
目は虚ろで、口は大きく開かれ、だらりと長い舌がこぼれ落ちている。
その様子は、まるで乱心した獣の様だった。
「っつ……!貴様は……!」
反応したのは、楸だった。
おそらく、彼はこう考えたのだろう。
あの穴は、緑仙が破流雨との一騎討ちを狙って作ったものだ。
そこから破流雨が出て来たということは。
「まさか……、いや、それよりもー……!」
突雨の死体に近付いているということは、同時に倒れた夜桜にも接近していると言うことだ。
このままでは、夜桜が危ない。
「おおっ!!」
楸は声を出して緩みかけていた緊張を張り直し、白鴎と香桜の引き金を引いた。
連続する発砲音、そして飛び出す6つの銃弾。
「アアッ!!」
喉を裂かれたような「鳴き声」を出して、破流雨はその場を飛び退き、銃弾をかわす。
かわされた銃弾は勢いそのままヤバイバの地面にぶつかり、そして
まるで意思を持ったかのように、全ての弾が、飛び退いた破流雨に向かって跳弾した。
「よしー……。
「ガッ……!!」
さすがにこの跳弾は破流雨にとっても予想外であり、飛び退いた直後で空中に浮いていた破流雨の体に、銃弾がめり込んだ。
破流雨は痛みに一瞬顔を歪め、動きを止めたが。
しかし、即座にまた突雨の体に向かって走り出した。
「……させません!!」
烈白が、気殺刀に手をかける。
しかし、それに破流雨はちらりとも目を向けない。
ただ、一心不乱に突雨の死体を目指して走り……そして。
突雨の死体にたどり着くと、その風が吹けば霧散してしまいそうなほど粉状になった突雨を口に入れ、咀嚼した。
「ギ……、突雨……」
「はあっ!!」
烈白の気殺刀が振り抜かれた。
突雨の命を絶ったものと同じ、横一文字の斬撃。
もちろん、実体はないし、目で見ることも出来ない。
しかし破流雨は何かを感じたのか、地面を蹴って高く跳び、その斬撃をかわしてのだった。
そして空中で1回転して体勢を整えると、そのまま楸達に背を向け、どこかに走り去ってしまった。
「……突雨を、食べたのか……?」
口に出してみたものの、楸にはその行動の意味が全くわからなかった。
「……!それより、緑仙は……!!」
「生きてるっすよー。案外軽傷っすー」
楸が穴の方を見ると、そこにはちょうど穴から這い上がってきた緑仙の姿があった。
体のいたる所に泥をつけ、服も破れていたが、本当に目立った怪我は無いようだった。
「ま、衝撃を流して受け止めての繰り返しだったっすからねー。ていうか、こっちのほうが大変な状況でしょ。夜桜さん、はやく治療しないと」
「ああ、そうだな……」
そう言って楸が懐から取り出したのは、小さな瓶に入った肌色の塗り薬だった。
「それは……、「不死刀」の……」
「ああ、56年前に倒されたって言われてる不死身の力を持つギバイバ、「不死刀」
そう言いながら楸は瓶の蓋を開け、人差し指に少量の薬を付けると、それを夜桜の脇腹に空いた風穴の「縁」にぐるっと、なぞるようにしてつけた。
「ま、これで体の中にも薬は効くー。とりあえず、温泉宿に夜桜を運ぼう」
そう言うと楸は夜桜の体をおぶり、温泉宿への道を戻り始めた。
腹に穴の空いていた夜桜だったが、薬の効果か信じられない事に、既に呼吸が安定し始めていた。
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