第49話

(くそっ……!)

温泉宿への帰り道、楸はおぶった夜桜の傷口から伝わる熱を感じながら、密かに悔いていた。

(すこし……、舞い上がっていたのかもしれない……。なにせ、久しぶりに「日本刀」にあったー……。どこかで勝ちを確信して、油断が頭の中にあったのかもしれないー……)

日本刀の所有者となる者は、今ではほとんどが素人であり、いきなりこんな死地に立たされ、武器を持たされたとしてもとても戦う事が出来ない者達だ。

それゆえ、いくら武器が良くても、それを振るう者が未熟ならば、すぐに日本刀は次の所有者を待つため、小さな部屋に投獄されることになる。

それゆえ、以外と2つの日本刀が合流するというのは、まぁ珍しいことなのであった。

(今考えれば作戦も甘かった……。もう少し烈白の能力の詳細を聞いておくべきだったー……。1分間の貯め……。それに少し動揺して、夜桜くんが飛び出したのを止めることが出来なかった……)

結果的に、時間は稼げたものの、夜桜は瀕死の重症となった。

烈白が早々に勝負を決めてくれたから良かったものの、戦闘が長引けば、夜桜は死んでいたかもしれない。

「……鍛え直しだなー。ちょっととぼけてたかも。慣れすぎたかな、ヤバイバに」

そうして夜桜の知らぬ所で、楸は1人新たな決意を決めたのだった。




誰かが言った。

上には上がいる。

あいつより喧嘩が強い奴は何人もいる。

だがいつも、最後にそこに立っているのは夜桜あいつだと。

何度殴られようと、何度蹴られようと、何度失神させられようと。

最終的にそこに立っているのは、夜桜だった。

その勝負の内容は、決して勝利とは言えない。

だが、敗北でも引き分けでもない。

立っているだけなのだ。

最終的に、相手を見下ろし、取り巻きの男達に視線を向けるのは、夜桜だったと言う話だ。

それが、夜桜の体に巻き付いた「能力」の様なものであり、「呪い」であり、そして「運命」だった。

……つまり、あの時、烈白が気殺刀を抜くことが無かったとしても。

夜桜は立ち上がり、突雨を倒していたのではないかと…………。

「うっ……!」

ずきりと、脇腹が痛んだ。

そしてその痛みは、最初は小さなものだったが、段々と痛みが強くなり、そしてその痛みは眠気を一瞬で吹き飛ばす程のものとなり。

「っづぁ……!」

夜桜を目覚めさせた。

薄い毛布が自分の下に敷かれており、どうやら自分がここで寝かされていたのだと、夜桜はぼんやりとした意識の中で状況を確認した。

自分の周りに充満した木の匂い。

どうやらここは、どこかの屋内。

「……あの温泉宿か……?」

そう言いながら、夜桜はゆっくりと起き上がり、敷かれていた毛布を畳んで、部屋の外へと出た。

そこにあったのは、やたらと長い廊下。

やはり、ここはあの温泉宿だと、夜桜は確信した。

(この様子だと……、あのギバイバ達との戦闘は終わっちまったみたいだな……。俺が生きてるってことは、少なくとも大敗ということは無いだろうが……)

夜桜の記憶にあるのは、腹に穴を開けられ、何とか1発突雨に頭突きをかましたものの、力尽きて気絶してしまった所までだ。

そんな自分が今生きていると言うことは、自分が気絶してから時間がたたずに戦況が変わったという事なのだろうが……。

(多分、烈白が何とかしたんだろうな)

そう思いながら廊下を歩いていると、いつの間にか宿の入り口まで来ていた。

この宿で1番広いであろうこの空間には、靴置、受付、男、女と書かれた暖簾のかかる温泉への道が。

ついでに待合室や休憩場としての役割もあるのか、たくさんの椅子や机も置かれている。

そしてその椅子の1つに、烈白が座っていた。

「よぉー烈白、まさかまた生きて会えるとはな」

「……!あぁ、夜桜さんですか。起きたのですね。傷口は塞がりましたか?」

「おう、そう言えば塞がってるな。何されたんだこれ?」

「ヤバイバにしかない薬を楸さんが使われたのですよ。バカみたいに早く傷が治る塗り薬です」

「ほー。やっぱり長い事戦いを続けてると、そういう物も出きるんだな……。で、どうなったんだ?戦いは」

「突雨は私の気殺刀で殺しました。破流雨はどこかに逃げて行きましたね。楸さんの銃弾を喰らってましたし、すぐに戻って来るということは無いんじゃないですか?」

「お、やっぱりお前が倒したんか」

「ええ、まぁ楸さんが居なければ、あなたは破流雨に殺されていたかもしれませんが……」

「あ?何だって?」

「いえ、何でも」

「んだよ……。気持ち悪いな……。楸さんと緑仙は?」

「楸さんは温泉に、緑仙は外に行きましたね。修行だと」

「おっほ、やっぱり元気なんだな」

そこで一通り聞きたいことを聞き終えたのか、夜桜の口が止まる。

そしてその時を待っていたかの様に口を開いたのは、烈白だった。

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