第8話
僕は集合体恐怖症ではないが、さすがにこれは気持ち悪い。
頭がタコの触手になったような人間が百、いや千をも越えて集まっているのだ。見ていて気持ちの良い光景ではない。
「「「おおおぉ……おおおぉぉ……」」」
バイバが積み重なり、山が高くなっていくのにつれ、上の方は段々と不安定になり、グラグラと揺れ始める。
どうやら、このバイバの山の「雪崩」までそう時間は残されていないようだ。
何とかして、この局面を打破する方法を考えなければ。
戦闘面はどうしても蛟さんに頼りきりになってしまうから、せめて頭脳労働で貢献したい。
僕はあまり性能のよくない頭をフル回転させ、答えを弾きだそうとする。
「……私が、道を開きます」
うーん、うーんと僕が考えている内に、口を開いたのは蛟さんだった。
「どこまでやれるかはわかりませんが……、もう道はあまり残されていない」
「しっ、しかし……、何をするつもりで……」
「……私は「日本刀」です。刀と名乗る以上、その身には刃を持つ必要がある」
そう言って蛟さんはだらんと両腕を前に下ろした。
それに伴い若干前傾姿勢になるのだが、それが、どうやら蛟さんの本来の臨戦態勢らしい。
蛟さんの纏う気配が……、刺すような殺気に変わっていく。
「
蛟さんが唱えるように言う。
すると、蛟さんの両腕の手首から肘にかけての部分が、ボコりと膨張した。
そのままボコり、ボコりと膨張していき、しばらくすると平たく伸ばされていく。
最終的には三角形に近い、鮫のヒレの様な形に変わる。
薄く伸ばされた皮膚は黒く変色し、まさに毒を帯びたような危険性を感じさせる。
これが……蛇苦蛇苦刀。
蛟さんの、真の姿だった。
「座頭さん、出来るだけ全速力で走って、私の後ろについて来て下さい。最初から出し惜しみをせず、25メートル走のつもりで」
「……ああ……わかった」
返事をするのに、すこし時間を要した。
何故なら、彼女……蛟さんに付いていくのが、どれほど困難な事か、僕は知っていたから。
立て付けが決して悪くない扉を蹴り飛ばす、圧倒的な筋力。
部屋の隅から僕の元へ到達した、ほとんど瞬間移動に等しいあの移動速度を、僕は見て、体験している。
しかし、腹をくくるべきだろう。
戦闘力も、知力でも役に立てていないのだ。
せめて決断力だけは……、蛟さんの足を引っ張らないでいたい。
「では……、行きます!」
ちらりと僕に目配せし、僕の準備が完了したのを確認すると、蛟さんは地面を蹴った。
すこし荒げた、声と共に。
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