刀戯伝

ポルンガ

蛟と錏毘と座頭市

第1話

「んがっ……、……うごっほっ!がっ……」

僕……座頭公麿ざとうきみまろは、器官に入ってきた大量の埃と、それを体外に吐き出そうとした猛烈な咳で目を覚ました。

体が重い。床に吸いつけられているようだ。

体を持ち上げたくない。未だ強く残る微睡みに身を任せ、もう一度夢の世界へと戻りたい。

しかし、それを許さなかったのは、うすらぼんやりと開けた目の中に飛び込んできた、異様な光景。

そこにあったのは、天井から鉄の棒の様な物に吊るされた鉄の鍋と、その下で煌々と燃える火。

どうやら積み上げた薪の上に火を起こしているらしく、現代日本では全く考えられない。観光地の文化財の体験イベントか何かでしか見ることのない、遥か昔に失われた調理風景。

僕は何とか身を起こし、眠い目を擦りながら辺りを見回すと……、いやはや、自分の置かれている状況の異常さを、改めて、叩き付けられた。

僕が寝ていた部屋は、全く掃除されていない、木材と藁で出来た、古い家屋。

時代に取り残され、見捨てられた遺産。

映画のセットか何かか……、と僕は考えたが、どうやら何か違う事に気付く。

……部屋の隅に、白いワンピースを着た、腰まで届くのであろう青々とした長髪を身に纏う少女が、体育座りでじっとこちらを見つめていた。

……何なんだ、この状況は。

いきなり知らない場所に転がされ、知らない少女に見つめられ、それを見つめ返す。

なにかのプレイか。

金を後でせびられるのか、それともここから何かまた凄い事が始まるのか。

段々とおかしな方向に思考が切り替わっていった僕を軌道修正するように、僕の思考が袋小路に迷い混む寸前で、青髪の少女が口を開いた。

「あなた……不幸ね」

は?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る