第6話

「何を読んでんだ?」


「…」


「面白い?」


「…」


「どういうとこが?」


「…」


「本が好きなんだな」


「…あんたさっきから何一人でぶつぶつ言ってるの」


「えっ?…あっ!やっべこれ長門さん向けのカンペだった!」



〜キョンがアホだった場合の涼宮ハルヒの憂鬱〜


 時計の針を少し戻して…。



 俺はバカみたいな顔をしていたに違いない。目の前の女性はそう、たしかに『未来から来た』といった。『未来から来た』と。『未来から』。『未来』…。


「信じてもらえないかもしれませ」


「わああああぁぁ!!!」


「わひゃああ!」


 目の前の女性はそう叫ぶと跳びあがった。


「ふわああぁ!いらっしゃぁい!よぉこそぉ↑この時代へ~!どうぞどうぞ、ゆっぐりしてってぇ!」


「どひぇええ!」


 俺がテンション爆上げしているとその女性は背を向けて一目散に走りだしたので背後から抱え込んでそのまま全速力でその場から離れた。


「たたたす助けてえ!」


 その女性がものすごく取り乱していたので、どこか落ち着いた場所へと連れていくことにした。


 ・・・

 ・・

 ・


 というわけで、目についた喫茶店に入った。一番奥の席が空いていたのでそこへ。未来から来たという女性はなかなか座ろうとしなかったので席を勧めようとしたが、上座というのはどの席だろう。よく分からないが、隙を見て逃げ出されないように奥の席に座ってもらうことにした。


「ああすみません取り乱しちゃって。自己紹介もまだでしたね。俺は周りからキョンと呼ばれています。仲がいいやつはみんなそう呼ぶので、あなたもぜひそう呼んでください」


 その女性は小さく、ひぃっ、と悲鳴を漏らした。どうやら初対面時の対応を間違えてしまったらしい。いや、だって急に目の前に待ち望んでいた未来人が現れるなんて思っても見なかったし。たぶん俺の後ろの席の鈴森だってきっと同じことをするだろうと思う。


「せっかくなので何か頼みましょうか。あ、心配いりません。ここは俺の奢りです。なんなら俺を含めて5人くらいに毎週お茶をおごるくらいの財布の余裕はあるので」


 俺の気さくな冗談を聞いた女性は、驚愕に目を見開き、しばらく視線を彷徨わせてからものすごく何か言いたそうな顔で口をもごもごさせていたが、観念したようにブラックコーヒーと呟いた。ここ、お勧めはハーブティーらしいですよ、とメニューを見ながら親切心で伝えたが、彼女は黙って首を振った。お茶嫌いなのかな。

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