第9話

「それで、俺は一体何をやればいいんですか?」


 みくるさんから俺の後ろの席の奴の名前が鈴森ではないということをしつこいぐらい言われた後(本当かよ)、俺はようやく本題に入った。するとみくるさんは封筒を差し出した。恭しく受け取って中身を確認すると、一見すると何の変哲もない便箋が何枚か入っていた。


「その中に入っている指示書に従って…あの、そんなにその便箋が気になります?」


 便箋と封筒を熱心に触っていた俺に、みくるさんは少し緊張した声で尋ねてきた。いや、読み終わった瞬間に燃えたり爆発したりする仕掛けとかないかなと思って。


「この時代の何の変哲もないレターセットです。さっき伝えた通り、くれぐれも、くれぐれも、彼女には見せないでくださいね」


 二回言った。大事なことなんだな。額縁に飾っておこうかと思ったけど言わないでおこう。さて、内容はなんだろうね。んん?


『涼宮ハルヒの髪の長さを短くさせる(ゴールデンウィーク明け)』


『涼宮ハルヒが自発的に団を作るように仕向ける(本日)』


『文芸部室で涼宮ハルヒとともに長門有希と対面する(本日)』


『涼宮ハルヒと仲良くなる(最優先事項)(可及的速やかに)』


 なんか、思っていたのと違うな…。未来人の手伝いというより、ギャルゲーの攻略みたいな感じだ。これで歴史が変わるものなのですか?


「いいえ、これは相当イレギュラーなことです。私自身ここまで変わった指令を書くことになるとは思いませんでした。これなら今までの方がまだ分かりやすかったな」


 みくるさんはそういって遠い目をしていた。なんだろう、何か思い出でもあるのだろうか。というか、この便箋を書いたのみくるさんなのか。いやいや、そんなことより。


「この二つ目と三つ目の指令、本日って言ってももう放課後ですよ?それに一つ目に至っては過去の話だ。現時点で四つ目ぐらいしか達成できていませんよ?」


「ええ、その通りです。ですから、今からあなたは過去へ行って、この4つ全てを達成してもらいます」


 おかしいな、4つ目はもうクリア済みだといっているのにみくるさんは聞こえなかったように無視された。これ以上好感度を上げてしまうと向こうから告白されてしまうかもしれない。しかし、今はそんなことどうでもいい。


「俺、過去に行けるんですか!!!!!」


「そうですね、出来れば連れていきたくないのですが、もうそれしか方法もありませんし」


 ひゃっほう、マジかよ。それだけは絶対できないと思ってた。マジかマジかマジか。俺ついにタイムマシンに乗れるのか!!!すぐ行きましょうすぐ!!!で、タイムマシンはどこにあるんですか!!!キョロキョロとあたりを見回していると、急に視界が暗くなった。


「キョンくん、起きて」


 声につられて目を開くと、目の前に特盛があった。起き上がると、俺は先ほどの河川敷のベンチで横になっていた。はて、俺はいつの間に寝てしまったのだろうと考えていると、目の前にしゃがんだ未来人の女性、みくるさんがとんでもないことを言った。


「今はゴールデンウィーク明けの放課後ちょっと前です。急がないと涼宮さんが家に帰ってしまうわ」


 ここは、ゴールデンウィーク明け…ここで一気に目が覚めた。タイムマシンは!!!


「禁則事項です」


 みくるさんはうふふっと笑った。そんなぁ…。俺はがっくりとうなだれた。

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