第10話
「あの…キョンくんそろそろ機嫌直して、ね?」
仏頂面で歩いている俺の横で、みくるさんが困った顔をしていた。そんな可愛らしい顔をしててもダメです。
「弱ったなぁ…あとで私の権限でちょっとだけ教えてあげるから。ね?」
「本当ですか!!!じゃあさっさと終わらせて帰りましょう!で、俺は何すればいいんですか?」
みくるさんは少し疲れたような表情で俺のポケットを指さした。あぁそうか、指示書を貰ってたんだ。俺は改めて封筒から便箋を取り出した。
「まずはこの『涼宮ハルヒの髪の長さを短くさせる(ゴールデンウィーク明け)』ってやつからですね。じゃあちょっとひとっ走りして買ってきます」
「えっ、何を買いにいくの?」
バリカンですよ?髪を切るんですよね?俺はそういって走り出したとたん、後ろから羽交い絞めにされた。
「だめ、だめです!そういう意味じゃないです!」
みくるさんは顔がとれるのではないかというほど首をぶんぶんと横に振っていた。やっぱりハサミの方がいいのだろうか。うまく切れるかな。
「だからそうじゃなくて!キョンくんが髪を切るんじゃないんです!!!」
「えっ!!!髪を短くするって髪を切ることじゃないんですか!!!」
「そうだけど!!!そうなんだけど!!!キョンくんが切っちゃだめなの!!!!!」
みくるさん、そんな大声出せたんですね。ということをぼんやり考えるくらいには大きな声をみくるさんは発していた。何だこの状況は。いや、まてまて。
「髪を短くさせるけど髪を切ってはならない…?それは未来の暗号か何かですか?」
「だから…彼女が自分の髪を短くするようにうまいこと誘導してってことです…」
ちょっと何言ってるのか分かんないですね。まあ半分冗談だが、半分本当に分からない。それはあれか、俺に秘められた催眠術師としての才能が発現する前振りか何かですか?若干期待して尋ねてみたが、残念なことにそうではなかった。どうやら本当に、奴に自発的に髪を切るように仕向けることをみくるさんは俺に期待しているようだった。
「ちょっと待っててください。確かジ〇ンプでそういうのできるキャラが何人かいました。ええと、忍者に死神にあと海賊…いやあいつ海軍だっけ?」
「キョンくん、真面目な話よ」
いやぁ、冗談であってほしかった。女子に髪を切らせるの?自発的に?俺が?どうやって???
「本当だったらわたしが来なくても彼女は髪を切るはずなの。キョンくんが彼女と会話することによって」
けどそうなっていない。会話なら毎朝してますけどね。まあ無視されることの方が最近多いですけど。あれ、そういえばゴールデンウイークぐらいから話しかけても無言なことが多くなった気がする。
「じゃあ頑張って」
そう言ってみくるさんはその場を離れ…ようとするのを俺が羽交い絞めにした。
「えっなんで?」
「こっちが『え?』ですよ。何ムチャぶりだけして去ろうとしてるんですか!俺一人でそんなこと出来るはずないでしょ。みくるさんも何か手伝ってくださいよ」
俺がそういうとみくるさんはびくっとした。どうしました?
「今『みくるさん』って…」
あれ…あ、そうか。すみません、あなたの名前知らないんで適当にあだ名付けて呼んじゃいました。つい声に出してしまった。しかしみくるさんは特に気分を害することはなかったようで、その話はスルーされた。
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