第56話

「信じられない信じられない本気で信じられない!!!」


 髪をガリガリと掻き毟りながら朝倉委員長はブツブツ言っていた。何怒ってるんだよ、それがいちばん大事なことだろ?


「そうだけど!そうだったけど!!それはもういいの!!!過去!!!もう過去なのそれは!!!」


 ウッソだろつい今の今までその話だったのに…。俺が目をつむっている間に何かあったのか?あ、そういえば。


「さっき俺のおでこにコツンって何か当たったんだけど、あれ朝倉委員長のおでこだった?」


「あー!あー!もう知らない知らないあーもう本当信じられないこの男!!!」


 なんだか朝倉委員長の機嫌がとても悪い。ちょっと前までむちゃくちゃ笑顔だったのに。まあそれは横においておいてだ。


「なぁ、朝倉委員長」


「あぁん?」


 ヤカラみたいになっている朝倉委員長に、俺は一瞬言葉を詰まらせそうになりながら確認した。


「明日からも、また一緒だよな?」


「……あ〰もう分かったわよ!どっかに行ったりしないから。また明日からもよろしくね!これで満足!?」

「おっしゃああああああ!!!!!」


 振り返ったら足元に胡瓜が置いてあった猫のように朝倉委員長が跳び上がっていた。俺が叫んだからな、ガッツポーズ付きで。そうでもしないと、ホッとして膝から崩れ落ちるところだった。そんな俺を唖然として見ていた朝倉委員長は、ようやく笑顔に戻った。




「ところでキョンくん。あたしも一つ聞きたいんだけどいい?」


 いいぞ、ニーナとアレキサンダーのこと以外なら何でも聞いてくれ。


「あたしがお別れって伝えた時、あたしがどこかへ行くと思ってたみたいだけどさ。キョンくんがどこかへ行くことになるとは思わなかったの?」


 ・・・ごめん、もうちょっと分かりやすく言ってくれます?


「だからさ。秘密を知られたあたしがキョンくんを…うーん、消しちゃうとか思わなかった?」


 あの…『消しちゃう』についてもう少し直接的に…。


「うん、あたしがキョンくんをころ「わかったもういいストップそれ以上聞きたくないごめん俺が悪かった許して!!!」


 俺は頭を地面につける勢いで下げて両手を拝むようにこすり合わせた。嘘だろ俺さっきそんな危ない状況だったの?!心臓の音がうるさく感じるほど聞いていると、朝倉委員長の堪えきれなくなったような笑い声が聞こえてきた。顔をあげると、目に涙を浮かべて笑い転げそうになるのを壁に持たれて保っている朝倉委員長がいた。


「おい!今のはマジで笑えなかったぞ!言っていい冗談と悪い冗談があるんだからな!」


「冗談のつもりはなかったんだけど」


 ほんの今の今まで大笑いしていた朝倉委員長の顔が、突然真顔より感情のない能面のように変わった。そして、その口がまたゆっくりと開いた。


「今のは冗談ね」


 そうして教室でクラスメイトの女子と談笑している時のように朝倉委員長はクスッと笑ってみせた。俺はへなへなと膝からその場に崩れ落ちた。宇宙人ジョーク、キツすぎるだろ…。

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