第55話

 その瞬間、朝倉委員長は俺の手を振り払うと無表情で固まった。なんだよ、まさかできないのか。


「キョンくん、自分が今何を言っているのか、ちゃんと理解してる?」


 あぁ、もちろん。というか、俺が言った言葉の意味を、俺が理解していないというのは流石に酷いだろ。


「…自分の記憶を、つまり頭の中を私に、人間じゃないモノに弄られるのよ?嫌でしょ?怖いでしょ?」


 そう言われるとなかなか怖いような気が…しなかった。というかそういった不安は全然ないな。


「どうして…?」


「それをやるのが、他の誰でもない朝倉委員長だからだ」




「本当に、いいのね?」


 もちろんと応じる俺だが、朝倉委員長はどうしても気がすすまないような顔だ。


「……ちなみに、万が一。そう!万が一失敗したら俺はどうなる?」


「死にはしないけど、頭がパーになるわね。それはまぁ別にいいんだけど」


 よくねぇよ!俺の頭がパーになるのは全っ然よくねぇよ!!!何を基準に別にいいって判断したんだよ!


「ね?やっぱりやめましょう」


 いいや、やる。頭がパーになるのは全っ然よくねぇけど最悪やむを得ないとして…いや全っ然よくないからな!これマジでフリじゃないからな!


「だからさっさと終わらせて、また明日からも一緒に楽しく遊ぼうぜ!」


 そうだとも。俺は今、毎日が楽しい。みくるさんを手伝ったり、涼宮と悪ノリをして朝倉委員長に怒られ、長門さん達とはまだ仲良くなれてないけど、もう少ししたら絶対にもっと楽しく遊べるようになるはずだ。それなのに、その時になって朝倉委員長、お前がいないなんてあんまりじゃないか。俺が朝倉委員長の正体を知ってしまったのが問題なら、それを忘れれば簡単に解決じゃないか。俺は朝倉委員長の手をとり、彼女の手のひらを再び自分の頭に当てて目をつむった。



「……?」


 目をつむってしまったので見えてないのだが、何も変わったことは起きなかった。というか、朝倉委員長が動く気配がない。実は俺は手首だけ握っているんじゃないだろうなと恐ろしい想像が頭をよぎった時、コツンとおでこに何かが当たった。


「もういいわ」


 朝倉委員長の声が聞こえたので目を開ける。ペタッと自分のおでこに手を当ててみるが、ほんのちょっと前にあった誰かの温かさは消え失せていた。


「よかったね。頭がパーにならなくて」


 本当か?もし中間の出来が最悪だったら責任取ってもらうぜ?朝倉委員長はクスッと笑った。ところで朝倉委員長。一つ聞きたい事があるんだが。朝倉委員長はお気に入りの座布団の上で寝転んでいる猫のように目を細めて「なぁに?」と言った。


「俺、朝倉委員長が宇宙人だってことまだ覚えているんだけど大丈夫か?」


「今そういうこと言うの本当に信じられないんだけど!!!」


 朝倉委員長が突然キレたように叫んだ。というかキレてた。

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