第54話

 俺は朝倉委員長の手を握ったまま体育館まで走った。なんで体育館だって?長門さん、体育館苦手そうな感じあるからな。


「ここまでくれば…おわっと!」


 体育館の中はダンス部か何かが大音響で音楽をかけながら踊っていた。なおさら長門さんが来なさそうでそれはとてもいい感じなのだが、いかんせん話をするにはうるさすぎるので体育館の中を通って出口へと向かった。外に通じる場所まで出ると、音楽が少し小さくなった。なので二階?(体育館に上の階があるのは知らなかった)に上る階段に座ると、今度はコンコンとピンポン玉の跳ねる音が聞こえてきた。卓球部でもあるのかしらんが、音楽の聞こえるこんなところで集中できるのだろうか?俺はため息を小さく吐いた。はい、現実逃避ここまで。


「それで…まぁ、さっきのことだが…さっき言ったとおり、長門さんは悪い宇宙人じゃないからさ、もうあんなことしたら」

「キョンくん」


 俺はビクッとしてずっと握っていた手をとっさに離してしまった。ここに来るまで一言も口を開かなかった朝倉委員長の声を聞いただけで。


「本当は、もう分かってるんでしょう?」


「…何のことだ」


「お別れね」


 俺はさっき離した朝倉委員長の手を掴んだ。


「なんでだ?長門さんだって俺に正体バレてるんだぞ」


 朝倉委員長がふっと笑った。なんだその諦めたみたいなツラは。


「別に、正体がバレたペナルティとかがあるわけじゃないの。正体を知られてしまったあたしが、キョンくんのそばに居られないの」


 意味がわからない。俺が朝倉委員長の正体を知ったところで俺と朝倉委員長の関係は何も変わりはしない。だが、朝倉委員長がそう思うのなら解決法は簡単だ。


「わかったよ。仕方ねえな」


 朝倉委員長が笑顔のまま少し震えた。俺は掴んだままの朝倉委員長の手を自分の頭に当てた。



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