第36話

 バニー騒ぎの次の日、登校した俺はクラスの女子達から吊るし上げられることになった。どうしてそうなったのかさっぱり分からないが、彼女らの中では朝倉委員長がバニーガールになった原因が俺ということになっているらしい。まあ実際半分くらいは俺のせいだとも言えるのだが、残りの半分というかそもそも首謀者である涼宮が我関せずと自分の席で窓の外を眺めているのは納得がいかない。とはいえ、俺が口を開くたび、その十倍以上の人数で糾弾されると多勢に無勢というかどうしようもなかった。チャイムギリギリにやってきた朝倉委員長が止めに入るまでは。


「朝から酷い目にあった…」


 お礼を言う前に朝倉委員長は自分の席についてしまったので、俺も自分の席についた。ふと視線を感じて振り返ると、つまらなさそうな涼宮が少しだけ口角を上げてこちらを見ていた。何だ?


「別に」


 そうかい。俺は顔を窓に向けた。昨日配ったビラを見て、何人くらいが連絡してくるかな。



「なんで一つも来ないのよ!」


 放課後、涼宮が部室で怒っていた。部室にいるのは涼宮と俺、そして長門さんアサヒナ先輩に朝倉委員長だ。涼宮が見ているのはノートパソコンのメールボックスで、昨日のビラを見た人間からの連絡は一つとして来ていなかった。


「まあ昨日の今日だし」


 気休めのようなことを言ってみるが、やはり配ったビラが少なかったのだろう。流石にバニーガールで配ることはもう出来ないので、ビラの方を改善してみたほうがよさそうだ。


「バニーガールが駄目ってんなら露出の少なくてエロい格好にするわ」


 チキンレースやめろ。というかお前、昨日の今日でもう次の衣装持ってきたのかよ。何これもふもふしてるけど。


「す、涼宮さん…朝比奈先輩に変な格好をさせるのは…」


 朝倉委員長が少しビクビクしながら声を上げる。やや不機嫌だった涼宮が、じゃあと言ったと同時に、アサヒナ先輩がガタンと椅子から立ち上がった。そしてそのまま俺と朝倉委員長の手を取ると、部室の外へと押し出して中から鍵をかけた。びっくりして目を見開いている朝倉委員長と俺だったが、ほどなくして鍵が開き、中からメイドさんが姿を現した。


 もう一度言おう。メイドさんが姿を現した。


「いいわ、いいわよみくるちゃん!自分から率先してコスプレしてくれるなんてやるじゃない!それでこそSOS団の団員だわ!」


 すっかり機嫌を良くした涼宮に言われて気がついたが、そのメイドさんはアサヒナ先輩だった。白いエプロンと、裾の広がったフレアスカートとブラウスのツーピース。ストッキングの白さが清楚な雰囲気を抜群に演出していて非常によろしい。


「あ、あぁ…」


 朝倉委員長が絶望したような声で呻いた。そんな朝倉委員長の手をアサヒナ先輩は取り、先程まで座っていたパイプ椅子まで連れていき、優しく座らせてあげた。いいね、百合の波動を感じる。なまあたたかい目で眺めていたら、ふとこちらを見たアサヒナ先輩のゴミを見るような目と目があった。谷口でもいたのかなと思わず振り返ってみたが、廊下にいたのは俺だけだった。再度部室の中に目を戻すとすでにアサヒナ先輩はこちらを見ておらず、朝倉委員長をぎゅっと抱きしめていた。そうか、もしアサヒナ先輩が着なかったら、朝倉委員長がこのメイド服を着ていたのか…。なんだか少し残念な気もしたが、これはこれで眼福だし、まあいいかと思いながら俺は部室に入った。


 謎の転校生がやって来たのはその翌日のことである。

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