第35話
「アルー晴レータ日ーノ事ー♪アルー晴レータ日ーノ事ー♪アル晴ーレタ、日ノコートォ、アル晴ーレター日ノー♪」
「・・・」
「アルー晴レータ日ーノ事ー♪アル晴レター日ノー事ォー♪アル晴ーレタ、日ノ⤴コトオ⤵、アル晴レタ、日ノ こ・と・お・お♪アル晴ーレータアー、日ノコートオーオー♪アル晴レタ&レタ 日ノ事?」
「・・・流石に無理がない?」
「やっと口を開いたな」
〜キョンがアホだった場合の涼宮ハルヒの憂鬱〜
「俺の十八番の歌が一番のうちに朝倉委員長の元気になってよかった」
「十八番の一番ってどういう意味なの…」
さぁ?ちなみに二番は「上だけを見ていると」だけでフルコーラスだ。一番の途中でみんなどっか行っちまうので聞かせたことは今まで一度もない幻のパートだな。俺の横にいる朝倉委員長がどうでも良くなったような顔でため息を付いていた。
カンカンに怒っているアサヒナ先輩にも一緒に帰ろうと誘ったのだが、家がどのあたりか尋ねたらどこかへ行ってしまった。今度遊びに行こうと思っていたのに。というわけで俺はすっかり沈み込んだ朝倉委員長と二人で下校していた。朝倉委員長はさっぱり元気がなかったので、俺は歌でも歌って元気づけてやろうとしたんだが、元気になったというよりツッコミを我慢できなくなったような感じだった。
「まぁ元気になったようでなによりだ」
「…これが元気に見える?」
そう言われたので朝倉委員長の顔を改めて正面からまじまじと眺めてみた。整った顔立ちだが泣き腫らした目が赤くなり、ウサミミを取るときに乱れたらしい髪、着た後に伸ばさなかったらしく服にはシワが目立ち、全体的にヨレっとしていた。だいぶお疲れに見えるね。
「見えるね、じゃなくて本当にお疲れよ…あたし、明日からどんな顔で教室に行けばいいの?」
「あっはは、確かに!」
肩を強めにグーで殴られた。いってぇな!
「キョンくんが悪いのよ。今のあたしを見てそんな事言うから。他に言うことないの?」
ふぅむ、今の朝倉委員長を見て、ね。いつもの快活な朝倉委員長と比べ、弱りきった今の朝倉委員長はそれはそれでグッと魅力が…いや、何かこれ言うと余計怒らせる気がするな。他に言うことかぁ。そもそも朝倉委員長が今こうなっている理由というのは朝倉委員長自身が言ったことが原因なわけで…あ、ピッタリな言葉を思い出した。
「ほらあれだ、身から出た何とかっていうやつ!」
「ウー!!!」
朝倉委員長が以前取り逃がした泥棒を前にした警察犬のようにうなり始めた。えぇ、じゃあなんて言えばよかったんだ?「エロかったぜ」とか?それこそ殺されそうだ。俺がああでもないこうでもないと考えている間、朝倉委員長はウーウー唸っていたが、突然よしっ!と叫んだ。
「自分の分はいっぱい反省した!次、失敗しないようにすればいい!」
俺も片足を上げて朝倉委員長を指差しながらよしっ!と返事をした。なんか知らんが元気になったようなので俺はこの辺で…そう言って背を向けたら肩をむんずと掴まれた。
「ねぇ、あたしがバニーガールをさせられたことに対して何か言うことない?」
俺は振り向けなかった。もし後ろにいる朝倉委員長の姿を確認してしまったら、とんでもないことになるような気がしてならなかったからである。
「…いや、献身的だなって思いましたけど」
思わず丁寧な言葉遣いになった。肩を掴まれているので逃げられないし。
「…あたしがバニーガール姿なのを見てどう思った?」
えっ!?何これどういう状況???自分のバニーガール姿の感想聞いてるの?俺に?なぜ?WHY?
「冗談か何かか?」
「冗談だと思う?」
だったらよかったんだけどなー、マジなトーンだもんなーこの声はさー。
「…見てない」
「は?」
感情が全くのっていない朝倉委員長の声が返ってきたが、俺は他に言うべき言葉を持たないので同じことを言うしかない。
「見てない。本当に」
「嘘。涼宮さんとあたしが着替え終わった後部室に入ったじゃない!」
「部室には入った…入ったがッ…!目に映った光景をッ…脳が記憶することを…拒否したッ!」
「…クラスメートの女子がバニーガールなのに見たくなかったの?」
バカがっ…!クラスメートの…バニーガール姿…そんな姿を見たら…歪むっ…!性癖が!取り返しがつかない程に…!
「…本当?本当に見てない?」
「あぁ、本当に見てないよ。バニーガールは」
「バニーガール『は』?…あっ、あっ!」
下着姿を見られたことを思い出したらしい朝倉委員長が、パッと俺の肩から手を離した。殴られる、と体を固くして身構えたがその衝撃はこず、恐る恐る振り返ると朝倉委員長の姿は幽霊のように消えていた。
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