第61話

「どこから説明しましょうか」


 歌でも歌うように、小泉はそう口にした。やけに楽しそうだな、今俺にとってお前の印象はかなり悪いんだぞ。涼宮の俺に対する好感度を100とすると、お前はだいたい7か8といったところだ。


「なんだ、誤差の範囲じゃないですか」


 どういう意味だこのやろう。


「ちなみに、朝倉さんに対するあなたの印象は何点ほどで?」


 不意をつかれて俺は少し考える。朝倉委員長なぁ。


「そりゃお前……90…、…いや、はちじゅう…7、87だ」


 なるほど、と小泉が訳知り顔で頷いた。自分で言った点数だが、なんだか無性に腹がたった。どういう感情だこれは。何か栄養が足りてないのか?


「そうですね。僕が説明する前に、まずあなたは彼女たちについてどれほどご存知なのか教えて下さい。その方が説明が少なくて済みますので」


 なるほど、そう言われてみればそうだ。ということで、おれはざっくりと説明した。みくるさんは未来人、長門さんと朝倉委員長は宇宙人、涼宮はよくわからんがあいつがきっかけでみくるさんはこの時代にやってきていて、俺はそれを手伝ったりしていることを。


「そこまでご存知なら話は簡単です。僕らも似たようなものなのでね。ただし、決定的に違う点があります。僕らは彼女たちと違い、あなたとほとんど変わらないという点です」


 何も簡単じゃなかった。お前が俺と変わらないというのは(容姿はともかく)当たり前として、みくるさんだってそうだろ。


「いいえ。なぜなら彼女たちは僕達とは違う時代を生きている。つまり、僕達の常識と彼女たちの常識は似て非なるものである可能性があります。善悪などの価値観はもとより、僕達の社会通念を彼女たちは過去の出来事として俯瞰して見ている。僕達がまだ到達できない思想などを持ち、それに基づき過去を操作することが出来る」


 小泉の顔はこれまでになく真面目だった。小泉の言っていることはよく分からないが、言わんとしていることは何となく分かった。要は、みくるさんは俺たちと違うから信用するなと言いたいんだろう。だからさっきの自分はみくるさんに攻撃的であったと、そう俺に言いたいんだろう。だがな。はいそうですかとみくるさんと縁を切れるほど俺は彼女と浅くない付き合いを既にしてきているんだ。


「お前は俺と同じという話だったが、俺から言わせてもらえれば俺とお前の考えは全然同じじゃない。谷口や国木田とだってそうだ。違うか?」


 思いついたことをそのまま口にした。すると、小泉は今まで見せたことのない顔をした。明らかに驚いた表情を作ったのだ。なんだ、まさかそんなことにも気が付かなかったのか?


「あぁ、いえ。そういうわけではないのですが…」


 そう言ってふむと考え込むようにして小泉は黙り込んだ。

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