第60話
「なんていうか、散々でしたね」
どことなく存在感が薄くなっているようなみくるさんにそう声をかけた。みくるさんはうん、と小さな声で返事をした。さて困ったな、会話が続きそうもない。また喫茶店にでも誘おうかなと思っていると、みくるさんは明日の昼休みに部室へ来てくださいとだけ言い、どこかぼんやりした足取りで朝倉委員長とは別の方角から公園を出ていってしまった。
「俺も帰るか」
特にやることも思いつかないし、今何かやると余計なことにしかならないような予感がする。朝倉委員長が去った方角へ歩き始めると、こちらに向かって歩いてくるやつがこっちに向かって手を上げていた。俺は憮然として足を止める。
「やあどうも。先程ぶりです」
その先程に朝倉委員長にこてんぱんに言い負かされてたことが嘘であったかのように、パーフェクトにいつもどおりの笑顔の小泉だった。実は同じ顔のやつが何人も居るんじゃないだろうな。
「いいですね。今僕が抱えている仕事を数人でまわせるのであれば喜んで同じ顔の存在を肯定したいところです」
冗談にマジで返されてしまった。部室で見知った真面目な優男という表面上の仮面がどんどん剥がれていっているな。
「どうして戻ってきた?みくるさんならもうここにはいないぜ?」
「残念ながらそのようですね。朝倉涼子が思いの外早くここを離れたと聞いたので、戻ってきたのですが」
誰に聞いた?というのは聞いても無駄だろう。長門さんも最初から自分以外に宇宙人は居ると言っていたし、こいつも単独で動いていないのはおおよそ見当がつく。
「僕が戻ってきた理由は朝比奈みくるではありません。あなたです」
それはちょっと予想していなかった。俺?俺に何の用だ?
「えぇまあ、そうですね。誤解を解きに、というのが一番近いと思うのですが。率直に、あなたは先程のやり取りを見て、僕にどういう印象を?」
「みくるさんを誘拐しようとしたヤバい奴」
小泉はふぅと芝居がかったため息をついて笑った。今、笑う要素なかっただろ。
「失礼、悪い予感が当たってたものでね。ちゃんと説明しますよ。ちょっと座って話しませんか?」
そういって小泉はベンチに目をやった。俺に断る理由もなく、小泉と並んで座ることにした。
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