キョンがアホだった場合の涼宮ハルヒの憂鬱

むーらん

第1話

 サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでも俺がいつから信じていたかというと確信を持って言えないが最初から疑ったことなどなかった。


 小さいときは幼稚園に毎年やってきていたし、そのたびに園長先生が用事で出かけていたがサンタクロースが来る日に毎年用事が重なるとはなんとも運のない人だと思ったものだった。


 サンタのことを想像上の赤服じーさんと疑う園児が周囲にはいたが、当然のようにそんな疑いを持つ奴の家にはサンタクロースも敬遠するようで、それを哀れんだそいつは両親から代わりにプレゼントを貰っていた。


 そもそもサンタクロースを疑い始めたら宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力者や悪の組織やそれらと戦うアニメ的特撮的マンガ的ヒーローたちがこの世に存在しないということになってしまう。


 俺は心の底から宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力者や悪の組織が目の前にふらりと出てきてくれることを望んでいたのだ。


 しかし現実ってのは意外と厳しい。


 実際のところ、UFOを見たことはないし、幽霊を探しに墓地へ行っても何もいないし、田舎へ行ったときにツチノコや河童を探しに一日中網をもって探し回っても何も出ないし、スプーンに至ってはウルトラマンの真似をするぐらいにしか役に立たなかった。


 たまたま遭遇しない自分の不運を呪いつつ焦りつつ、俺はテレビのUFO特番や心霊特集を欠かさず録画して何度も観ることにしていた。いるはずだ……まだ何かやっていないことがあるはずなんだと俺は考えていた。


 なんでこんなことを頭の片隅にぼんやり考えているかというと、高校でクラスメイトに自己紹介をする番がつつがなく終わったからであり、高校生の間には何かしらとの遭遇をしておきたいと思ったからだった。



 なんか今教室が静かになった気がした。俺は考え事を中断して振り返ってみると、えらい美人がそこにいた。


 喧嘩でも売るような目つきで立っていたそいつはゆっくりと教室を見渡し、最後に俺を見下ろしてじろりと睨むと、にこりともせずに着席した。


 何か面白いことを言ったのかもしれないが、あいにく俺は聞きそびれてしまった。というか名前も知らない。後ろの席のやつが谷口ですと自己紹介を始めたので、とりあえず彼女のことは田中と呼ぶことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る