第65話
「涼宮さんのイライラが具現化したものだと思われます。心のわだかまりが限界に達するとあの巨人が出てくるようです。ああやって周りをぶち壊すことでストレスを発散させて…あの、聞こえてますか?」
俺は小泉に肩を叩かれるまで呆然と立ち尽くしていた。遥か遠くに見えるのは、遥か昔から俺が見てみたかったものだったからだ。その背は三十階建ての商業ビルより高い。青白い体は灰色の世界でも光っていた。かろうじて人型であることがわかるが、その輪郭ははっきりとしているわけではなかった。
「もしもし?大丈夫で「うわあああああああああ!!!!!!」
顔を近づけていた小泉が反射的に仰け反ったが、俺が奴の襟首を掴む方が速かった。
「なんだあれ!どこに通報すればいい!?警察か!?市役所か!?NASAか!?科学特捜隊か!?」
「あの、手を離して…」
小泉が何か言っているが俺の興奮は収まるところを知らない。何だあれ何だあれ何だあれ!!!
「あれ、もの○け姫に出てた奴だろ!まさか実在していたなんてな!!!まさかお前らシ○神の首を密猟でもしたのか?…小泉?」
静かになっているのでそちらを見ると、俺に首を掴まれていた小泉は目を回して気を失っていた。分かるよ、俺も今にも気絶しそうだからな。両手に残る生々しい感触をとりあえず無視し、俺はまた青白い巨人に目を向けた。すると俺に気がついたのか、挨拶でもするように巨人は片手をゆるゆると上げ、
鉈のように振り下ろした。かたわらのビルが屋上から半ばまで叩き割られ、コンクリートと鉄筋の瓦礫が轟音とともに地面に落下した。
「痛っ」
うっかり小泉を掴んでいた手を離してしまい、ゴッという鈍い音がして小泉が意識を取り戻した。おい小泉、お前が寝ている間に大変なことになっているぞ。アレが街を破壊し始めた。後頭部を手で押さえながら、小泉は青白い巨人の方を見た。
「アレを止めるにはやっぱりウル○ラマンが必要だな。それかパシフィック・○ムのイェー○ー」
「残念ながら」
小泉が少し大きな声で俺の言葉を遮った。
「残念ながら、この世界にそういったモノはいません。少なくとも僕は、今までに一度たりともそういった存在に助けられたことはありません」
「じゃ、あれは暴れっぱなしなのか?」
「いいえ。僕がいるのはそのためでもあるのですから。見てください」
小泉は指を巨人に向けた。俺は目を凝らす。さっきまではなかった、赤い光点がいくつか巨人の周りを旋回していた。
「僕の同志ですよ。僕と同じように涼宮さんによって力を与えられた、巨人を狩る者です」
そう言っている小泉の身体が赤く光っていた。発光する小泉の身体はたちまちのうちに赤い光の球体に飲み込まれ、俺の目の前に立っているのは、もはや人間の姿ではなく、ただの大きな光の玉だった。その赤い光球はふわりと浮き上がると、二三度ばかり左右に揺れ、残像すら残らないスピードで一直線に巨人へ向けて飛び去った。
そこから先はあっけなく終わった。赤い光球が青白い巨人を切り刻むように攻撃し、巨人は地面に落下する途中で雪のように崩れ、煙のように消えた。
「お待たせしました」
青白い巨人を倒した赤い光球は四方へ散り、俺の前に戻ってきた一つが人型になると、それはいつもの小泉へと姿を変えた。俺は小泉に近づき、手を掴んだ。
「…何でしょう?当然ですが、僕はあなたと同じ人間ですよ?」
「いいや、お前は普通の人間じゃないさ」
そして俺は小泉と握手した。
「ヒーローだよ、俺達の。ゴレンジャーみたいな」
「……全員レッドじゃないですか」
小泉は苦笑いしていたが、今までで一番素の笑い顔のようだった。
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