第64話

「つまりお前の超能力は…世界を灰色にするスキル!」


「違います」


 なんだ、違うのか。なんかめ○かボックスのカラーオブビューティーの劣化版みたいな能力だと思ったのでホッとしたぜ。


「半径はおよそ五キロメートル。通常、物理的な手段では出入り出来ません。僕の持つ力の一つが、この空間に侵入することですよ」


「…地味だな」


 ん?いやよく考えてみると、秘密基地として使えるのなら普通に便利だな。引きこもりたいときとかにマンガ喫茶的に使えたら色々と快適そうだ。


「残念ながらそれは無理です」


 小泉はそう言いながら雑居ビルの中に入っていく。俺は周りを探索しようと思ったのだが、ほどなく恨めしそうな面で小泉が出てきたのでしぶしぶビルの中に入った。


「閉鎖空間はまったくのランダムに発生します。一日おきに現れることもあれば、何ヶ月も音沙汰なしのこともある」


「本当に何の役にも立たない空間だなここ…」


 階段を登りながらそんな会話をした。まじで何なんだこの空間は。


「ただ一つ明らかなのは、涼宮さんの精神が不安定になると、この空間が生まれるってことです」


「ダウト。涼宮の精神が何ヶ月も安定しているわけ無いだろ」


 それこそ目覚ましのスヌーズみたいに頻繁に…あぁ、不安定に安定しているっていう冗談だったのか、今のは。だとしたらひっぱたいてやる。そんなことを思っている間に、俺たちはビルの屋上に出た。まぁまぁ高い。


「で?話はわかったが、こんなものを見せるために、わざわざ連れてきたのか?」


「いえ、核心はこれからですよ。もう間もなく始まります」


「花火でも打ち上げるのか?」


 俺はだんだんと飽きてきていた。変わった経験をしているには違いないが、みくるさんは朝倉委員長たちとのこれまでを思うと、地味というかなんというか。


「僕の能力は閉鎖空間を探知して、ここに入るだけではありません。言うなれば、僕には涼宮さんの理性を反映した能力が与えられているのです。この世界が涼宮さんの精神に生まれたニキビだとしたら、僕はニキビ治療薬なんですよ」


「ちょっと何言っているか分かんないですね」


 俺の皮肉に、不意に小泉は顔を上げた。


「始まったようです。後ろを見て下さい」

見た。


 遠くの高層ビルの隙間から、青く光る巨人の姿が見えた。

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