第34話
結局涼宮が帰ってくるまで特に朝倉委員長が復活することはなく、かといって帰ってきた涼宮はというとカンカンに怒っており(ぶつぶつ呟いていた独り言から察するに校門前から生活指導の教師によって愛の説教部屋へ連れて行かれたらしい)、自分のウサミミをむしり取って床に叩きつけ、俺がいるにも関わらずバニーの制服を脱ぎ始めた。ぼんやりしていた俺も悪いのだが、黒色のあったところが肌色になったように目の端で捉えかけたときにアサヒナ先輩によって部室の外に叩き出された。小柄にみえてけっこう腕力あるね。
「腹立つ腹立つ腹立つーっ!」
怒り冷めやまぬといった風に、制服に着替え終えた涼宮がカバンを持って部室から出てきた。どうやら今日はもう帰るらしい。まあ気持ちもわからんでもない。涼宮の後ろ姿を見送っていると、音もなくその後を長門さんが帰っていった。俺も帰ろうかなと部室のドアを開けて中に入ると、半裸の朝倉委員長と目があった。超完全に下着姿の朝倉委員長を一瞬だけ眺めて、俺は半分以上開けかけていたドアを半歩下がって閉めた。
「失礼」
少しの間をおいて、断末魔のような絶叫か何かが部室から聞こえてきた気がしたが、俺は遠くで鳴ってるブラバンの下手くそなラッパの音色を聴く方を選んだ。しばしの間があり部室のドアが静かに開いたが、俺が入ろうかどうしたものか立ち止まっていると、カンカンに怒ったアサヒナ先輩が俺の顔の下にズイッと近寄った。(いや、正直怒られるかなとは思っていたけど怒っているのは朝倉委員長だと思っていた俺はかなり面食らった)
「キョンくん、あのね!」
そんな絵本あったな、などと思っている場合じゃなかった。怒れるチワワのようになったアサヒナ先輩は、小柄な身体からは想像できないほど怒りのオーラを発していた。
「あたしのことを助けてくれたのは感謝していますけど!でも!だからって!彼女さんにこんなことをさせるのは絶対に駄目です!!!」
噛みつかれそうな剣幕でアサヒナ先輩はそう言った。むちゃくちゃ怒ってる。けど、朝倉委員長が自分で言ったことですよ。
「そんなときは!キョンくんが止めてあげるの!分かった?!?!?!」
分かんないや、なんて言おうものならグーで殴られそうな勢いだ。フーフーと威嚇する猫のように息を切らしたアサヒナ先輩に、俺は自分でもおかしいとは思いつつ親しみを覚えていた。
「アサヒナ先輩。あなたは、いい人ですね」
「キョンくんは悪い人です!!!」
湯沸かし器のように湯気を出しそうなアサヒナ先輩を見ていると、俺はホッとしたのを自覚した。みくるさんと出会ってからなんだかよく分からないままずっと手伝ってきたけど、みくるさんは俺達にとって本当にいい人なのかなって心の底で疑っていたのかもしれない。けれど、少なくとも目の前の彼女は、落ち込んだ人のために怒ってあげる事のできるらしかった。しず○パパもそれが一番大事って言ってたしな。ちょっと違ってた気もするけど。
「聞いてますか!なんだか都合のいいことを考えて現実逃避している目ですよ!」
「超能力者かな?」
うっかり口走ってしまい、また怒り出してしまったアサヒナ先輩をなだめつつ、俺は朝倉委員長を連れてようやく部室をあとにした。
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