第33話③
「朝倉、あんたスリーサイズ…いいわ、そのままで」
そう言うとツカツカと大股で朝倉委員長と距離を詰めた涼宮が、両の手で朝倉委員長の胸を鷲掴んだ。
「き、きゃあああああああ」
朝倉委員長はびっくりしたように悲鳴を上げた。というか本当にびっくりしたんだと思う。俺もびっくりして悲鳴を上げそうだった。いや、いきなりそんな行動を取るなんて思うわけないだろ。
「バ、バカ!直接鷲掴みにするやつがあるか!普通に服を手渡して着てもらえよ」
「バカはあんたよ。みくるちゃんに合わせたサイズが誰にでもホイホイ合うとでも思ってるの?それにね、今のは直接じゃないわ。直接っていうのは、こう!」
言い終わるかどうかというタイミングで、涼宮は胸の前で腕を抱きしめるように唖然としている朝倉委員長のセーラー服の下から手を突っ込んでじかに揉み始めた。
「ぎゃあああああああ!!!!!」
「うーん、ブラで寄せてなくてもコレだけあれば…いや、でもみくるちゃんよりはないし、うーん、難しいわね」
手足をバタバタさせて暴れている朝倉委員長に構わず、涼宮は目を瞑って何かを計算しているようだった。
「うん、まあ多分大丈夫!合格よ!」
そう言ってセーラー服から涼宮が手を抜くと、朝倉委員長が脱力したようにへたり込んだ。すかさず駆け寄って伝える。
「よかったな!合格だって!」
「…よかった?今よかったって言ったか?言ったな?」
何怒ってるんだよ。喜べ、これで先輩も長門さんもバニーガールにならなくて済むんだぞ。
「その代わりにあたしがバニーガールになることになりそうなんだけど!!!」
なりそうじゃなくて、なるんだよ。俺、朝倉委員長の尊い犠牲をずっと覚えているから…。
「覚えてるな!忘れて!今すぐ!速く!!!」
そりゃ無理だ。だって、バニーガールになるのは今からだし、ほら。そう言って朝倉委員長の背後を指差すと、委員長は恐る恐る振り返った。
「だいじょうぶ。サイズはちょーっと合ってないけど、きっとだいじょうぶよ」
「すっ、涼宮さん、涼宮さん!まさか本気でそんな服でビラ配りをしようって訳じゃないわよね?ものの例えよね?」
上ずった声で朝倉委員長が祈るように声を上げる。
「決まってるじゃない。あたしはいつも本気よ。さ、みんな下校しちゃう前に校門でビラ配りするわよ」
「こここ校門!?そんなたくさんの生徒がいるところで…」
「そうじゃなきゃビラ配りの意味ないでしょ!ほら、もう時間ないからさっさと着替える!」
「や、やめ…ほっ、本当に怒るわよ!怒るからね!!!」
「あーら、じゃあやっぱり今からでもみくるちゃんにバニーガール着させようかしら。あたしはそれでも別に」
「おう涼宮!うちの委員長が一度した約束を簡単に破るとでも思っているのか?見損なうなよ」
「えっ、ちょっとキョンくん何言って」
「お前は知らないだろうが朝倉委員長はな、アサヒナ先輩が嫌な目にあったら絶対守ってやるって約束してるんだ」
「あの、たしかにさっきはそう言ったけど」
「今がその時なんだよ。アサヒナ先輩を守るためなら、朝倉委員長はたとえ火の中水の中草の中森の中バニーガールの中だって耐えられるんだ」
「いや、けど流石にバニーガールは」
「この朝倉委員長の覚悟を疑うようなら、いいか?俺は暴れるぞ。何としてでもお前の考えを変えてやる」
「えっ?」
「わかった、わかったわ…朝倉の覚悟、しかと受け取ったわ」
「あの…」
「分かってくれたか…。朝倉委員長はアサヒナ先輩のためなら喜んでバニーガールになってくれるさ」
「そうだったのね、無理やり着替えさせようなんてしてごめんなさい。さあ、一緒にバニーガールに着替えましょう!」
「……ひゃい」
おめでとう、これでここにいる全員が幸せになれた。俺と涼宮は朝倉委員長に向かって拍手をした。その後俺はアサヒナ先輩の手を引いて着替えの邪魔にならないよう一目散に部室を出た。
「あの、あの、助けていただいたことにはお礼を言いたいんだけど、彼女、だいじょうぶなの?」
アサヒナ先輩(やっぱり言いにくいな、みくるさんなら五文字で済むのに)が部室の前で心配そうに俺に聞いてきた。
「いやぁ、実は俺も途中から変なスイッチ入っちゃってて、あんまり大丈夫じゃないような気がしてます」
えぇっと驚いたような声を上げるアサヒナ先輩。まあでも朝倉委員長が自分で言ってたことだし。まさか自分がちゃんとバニーガールの衣装を着るハメになるとは思ってなかっただろうけど。
それからしばらくして「入っていいわよー」と合図があり、俺とアサヒナ先輩は部室のドアを開けた。
「どう?」
そういったのは二人のバニーガールズのうちの元気そうな方だ。いいんじゃない?
「なによ、ノリ悪いわね。じゃあこっち見てみなさい。なかなかいい感じだと思わない?」
そう言って元気の無いほうを椅子から立たせ自分の横に並ばせる。肩で呼吸しているようで、ウサ耳どころか全身が上下運動していた。
「色々頑張ってはみたんだけどね。やっぱりみくるちゃんに合わせて買ったやつだから、ここがちょっとペロンってなりそうなのよね。んー、念の為どこまでズレるか試してみるわね」
そう言うと腰のあたりの布地をぐいっと下に下げ
「きゃあああああ」
悲鳴を上げてへたり込んだようだ。
「ちょっと朝倉、何恥ずかしがってるの!ここでならまだしも、校門でペロンてなったら流石にあたしでもちょっと悪かったかもって思うからここで試しておきましょうよ」
お前にも罪悪感とかあったんだなとか言おうとしたが、どうやら時計を見たらしく元気な方が手を引くようにして二人は部室を出ていった。なんとなく、出て行くときに片方のバニーガールの視線を感じた気がしたが、俺はそちらを見なかった。二人が出ていったあとに、ようやく俺は部室をゆっくりと眺めてみると、長門さんがこちらをみていた。そして黙ったまま床を差した。目をやるとそこには乱雑に脱ぎ散らかされた二組のセーラー服と…
「先輩、先輩、ちょっと…」
心配そうにドアの入り口で廊下を見送っているみくるさん(小)に声をかける。とてとてと音がしそうな足取りで部室に入ってきた彼女に、俺は長門さんと同じように床を差した。あっと声を上げるアサヒナ先輩。
「すみません、これの片付けをお願いします…」
それだけ言って部室を出る。ドアを閉めてからはぁっと大きく息を吐きだし、そのまま三回、廊下で深呼吸をした。それから部室の扉にもたれかかる。その後、『いや、気づいたなら長門さんがブラジャー片付けてくれたらよかったんじゃない?』という気づきを得て、再度ため息を吐いた。
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