第30話

 下駄箱で靴を取り出そうとした俺は、手紙を発見した。ラブレターかなとわくわくしながら裏返すと、みくると書いてあった。ちょっとだけがっかりした。


『放課後、屋上で待ってます みくる』


 とあったので、さっそく玄関から屋上へ向かった。


「おはよっぷー、キョンだよ」


 屋上の扉を開けながら挨拶をすると、いつもの服装と特盛に戻ったみくるさんがいた。ふぅむ、もし先ほどの制服姿が変装のつもりだとしたらちょっとだけ俺たちの未来に不安が出てくるな。ロケッ〇団二人のガバガバ変装の方がマシである。


「…あれ?」


 一瞬、深刻な顔をしていたみくるさんが、何かに驚いたようにして首を傾げた。どうしたんですかと尋ねると、えぇっとと少し考えて、まあいいわといった感じで口を開いた。


「無事わたしと出会えたようで何よりだわ」


 捕まえられ、連行されてきたように見えたが、あれを無事といっちゃって大丈夫だろうか。というか、えぇ、みくるさんの中ではあれで計算通りなんですか?


「計算通りなわけないじゃない!あの時、涼宮さんに見つかったときは本当にびっくりしたんだから」


 ほんの数時間前のことを懐かしい思い出のように話すみくるさん。何か話が噛み合ってないような気がする。


「ちなみになんですが、どうしてうちの高校の制服なんて着ようと思ったんですか?」


 みくるさんも俺の質問におや?という風であれこれと話を進めたところ、なんとあのみくるさんはこのみくるさんではなく、※今より若い頃のみくるさんだそうだ。(※最初、『若かった頃』と口を滑らせてへそを曲げられたので言いなおした)


「もう!それに私たちは過去に戻っているときにはそんな道具使わないの」


「使わないということは、未来ではそういう道具もあるんですか?」


「それはあ…禁則事項です」


 何か口を滑らせそうなみくるさんだった。仲良くおしゃべりしていると案外ポロっと未来の機密情報を知る機会があるかもしれない。


「そんなことより!ようやく文芸部にわたしも加わりましたね」


 そうですね。まさかみくるさん本人が助っ人に来てくれるとは思っていなかったので心強いです。あれ、でも確か未来人ってこの時代には干渉できないとか言ってませんでした?


「よく覚えていましたね。その通りです。なので昔のわたしはキョン君を手伝うようなことはほとんどできません、横で見ているだけですね」


「何しに来たんですか!」


 みくるさんにツッコんでしまった。みくるさんはひぇっと驚いたようだったが、気を取り直してこほんと咳払いをした。


「確かに、この頃のわたしは何もできませんでした。ですが、今のわたしは違います。この頃の経験を踏まえて、キョン君たちをサポートできるわ。だから昔のわたしとも仲良くしてあげて、ね?」


 なるほど、これから先に俺たちが経験することは、みくるさんはすでに経験済みってことか。たしかにそれは心強い。しかし、直接協力できる奴も欲しいな…。


「朝倉さんや長門さんに手伝ってもらってね。あと、もうちょっとあとでまた新しい団員が加わるわ。楽しみにしてね」


 おぉう、流石経験者。これからの流れが分かるってすごいな。ところで、せっかく名前が出たのでこの機会に前から疑問に思っていたことを聞いてみよう。


「たしか、長門さんはお助けキャラみたいな説明だった気がするんですが、今のところ全然助けてもらえてないですよね?むしろ今まで俺を手助けしてくれていたのは朝倉委員長なんですが、そもそも俺、みくるさんから朝倉委員長の話を聞いた記憶がないんですけど、何か理由とかってあるんですか?」


 するとみくるさんは心底きょとんとした顔をした。


「え?そんなはずはないわ。だって朝倉さんはキョン君やわたしをいつだって手助けしてくれたし。長門さんがお助けキャラ…?たしかに長門さんはすごい人だけど、表立ってはわたしたちには関わらなかったはずだけど…」


 おいおい、なんだか話がおかしくなってきた。確認ですが、俺は朝倉委員長と長門さんを頼ればいいんですよね?


「えっと、どちらかといえば、朝倉さんが助けてくれます」


 なんだ、これはいったいどういうことだ?俺を手助けしてくれるのは朝倉委員長で、みくるさんが言うには俺を手助けしてくれるのは朝倉さんだから…ん?合ってる…のか?だんだん話がややこしくなってきたので俺はみくるさんと別れ帰宅することにした。


 思えばこの時に気が付くべきだった。世間話をしにわざわざみくるさんが来るはずなど、ありえなかったのだから。

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