第4話
ゴールデンウィークが明けた一日目。俺は汗をかきながら学校へと続く坂道を歩いていた。
「よ、キョン」
後ろから肩を叩かれた。谷口だった。ちなみにキョンというのは俺のあだ名だ。妹や友達はそう呼ぶ。そうでないやつはロボコップとでも呼べ。冗談だ。なんてことを考えているうちに俺は校門に到達した。
教室に入ると鈴木はとっくに俺の後ろの席で涼しい顔を窓の外に向けていた。そういえば髪型が前と変わっている気がする。それで俺は、なるべく気さくに話しかけた。
「髪切った?」
鈴木はロボットのような動きで首をこちらに向けた。おいおい、そのネタはさっき俺がやったからもういいぞ。
「うるさいバカ黙れどうでもいいでしょ」
割と強烈な拒絶の言葉が返ってきた。そういえばそんなに短くないかもしれない。けど前からそんな団子みたいにしてたっけなぁと考えこんでいると同時に、俺そこまで嫌われるようなことしたっけとも思っていると、岡部担任が教室に入ってきて、会話はそこで終わった。
というような会話(ですらない問いかけ)を、俺は一ヶ月ほど毎朝続けてみた。その結果、ついに話しかけた時の返事が五回に一回だけになった。
「おい、キョン」
休み時間、谷口が難しい表情を顔に貼り付けてやってきた。アホみたいだぞ。
「ほっとけ。んなこたぁいい。それよりお前、もういい加減諦めろって」
「諦めろとは?」
俺はさっぱり思いつかなかったので聞き返した。俺の後ろの鈴木の席を親指で指して谷口は言った。
「俺、涼宮にあんなに断られ続けても話しかけるやつ初めて見るぞ。お前、とんでもねえマゾ野郎なのか?」
さて、涼宮とはもしかして鈴木のことを言っているのだろうか。もしかしたら涼宮という名前なのか、あいつは。
「昔からキョンは変だったからねぇ」
誤解を招くようなことを言うな国木田。
「涼宮さんも変な人間だからウマが合うんじゃないかなぁ」
「いや、むしろ全然ウマが合ってねえだろ。というか涼宮に断られること自体よっぽどだぞ」
「あたしも聞きたいな」
いきなり女の声が降って来た。軽やかなソプラノ。見上げると確か朝倉という女子の笑顔が俺に向けられていた。
「あたしがいくら話しかけても、なーんにも答えてくれない涼宮さんにあたしはもう飽き飽きしてるのね。心が死なないためのコツでもあるの?」
俺は一応考えてみた。と言うか考えるフリをしてして首を振った。考えるまでもないからな。
「諦めんなよ、諦めんなよお前!どうしてそこでやめるんだそこで!もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメダメ諦めたら。周りの事思えよ、応援してくれる人達の事思ってみろって。あともうちょっとのところなんだから。俺だって好感度100になるのいつかなって思いながら頑張ってんだよ!ずっとやってみろ!必ず目標を達成できる!だからこそNever give up!!」
朝倉が笑顔のまま、等速直線運動で女子の輪に戻っていった。何今の、人間の動き?なぁと振り返ると谷口と国木田の姿が消えていた。なんでだよ。
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