第32話
「悪い子はいねがー!」
文芸部室の扉を蹴破るように叫びながら開けてみるも、部室の中に涼宮の姿はなかった。自らの背後に置かれたきゅうりに気がついた猫のように椅子から跳ね上がったみくるさん(小)と、それと対象的に全く動じずに筋トレに励む長門さんの二人がいた。
「ちょっとキョンくん。この建物古いんだからもっと丁寧に開けなさいよ…えへ、こんにちは」
こころなしかいつもより声のトーンを落とした朝倉委員長が恐る恐るといった風に部室に入ってきた。いったい何に怯えているんだ。そんなことより。
「あの野郎いったいどこへ…一人残らず見つけ出して折檻してやる」
「まるで涼宮さんが分裂できるみたいな言い草ね」
朝倉委員長が呆れるような声を上げた。あぁ、そういえばと続けて
「六時限目に涼宮さん教室にいなかったわね。放課後にふらっと教室に戻ってきて、キョンくんの顔に落書きだけしたらすぐどこかに行っちゃったわ」
「本当に何がしたいんだあの野郎!」
まあこのやりとりで俺が怒っているワケをみくるさんと長門さんに…みくるさんって二人いて(同一人物だけど)ややこしいな、まさか(小)と呼ぶわけにもいくまいし。とここで俺に妙案が思い浮かんだ。俺はみくるさん(小)の正面に立つ。
「今度からあなたのことをみくるちゃんって呼んでいいですか?」
いつものみくるさんはそのままみくるさん、こっちのちっちゃいみくるさんはみくるちゃんと呼べば、俺の中で混乱することがなくなる。おお、冴えてるな俺。
「えっ?あの、あたしは別に…ひえっ」
ぽかんとしたまま話し始めたみくるちゃんが人喰い虎でも見たような顔をして悲鳴を上げた。なんだ、誰か来たのかと俺が後ろを振り返ると、同じようにドアの方を振り返る朝倉委員長の後ろ姿が目に入っただけで、ドアは空いてさえいなかった。
「あの、あの!その、…たしかに涼宮さんはあたしのことをそう呼ぶけど、キョンくんには今まで通りみくるさんで…ひえっ!あの、できれば名字の朝比奈さんって呼んでくだひゃい!」
あれ、返ってややこしくなってしまった。人の名前覚えるの苦手なんだよ。なんとか今まで通りみくるさんに戻したいと思っていると。
「キョンくん。彼女は一学年先輩なんだから、やっぱり下の名前で呼ぶのは失礼よ。朝比奈先輩と呼びましょう、ね?」
援護を頼もうとした朝倉委員長さえもそんな事を言いだした。アサークラ、お前もか。結局呼び方を変えることになってしまった。あさ…あさひ…あさひな…うーん、覚えられるかな。
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