第12話

「おーい!」


 とりあえず声をかけてみた。聞こえてないのか、足を止める気配はない。あぁ、言い忘れていたが俺がいるのは坂を下る途中にあるY字路を逆方向に少し戻った場所だ。ここなら向こうからは見えず、こちらから先に声をかけられるという場所だった。


「おーい!!!」


 さっきより近づいて声を発しているが、奴が止まる様子はない。いやむしろ歩くペースが上がった気さえする。


「おーい待てよー待てったら―!!!」


 もう少しで追いつくと思っていたら猛スピードで走りだしやがった。何だあのアホみたいな速さ。この前の50m走より速いんじゃないか?


「そこの北校生、止まれー!止まれー!ドロボー!露出狂!逮捕するぞー!」


 こりゃ追いつけねーわと適当に叫びながら走っていたら、何を思ったか180度ターンしてきて頭から正面衝突した。ってー、割れてない?しばし目の前に星が舞っていたが、目の焦点が定まってくると目の前に鬼がいた。いや、鬼の形相の人間だった。


「あんた、あたしの名前、言ってごらんなさい」


 あー…先に教えておいて欲しいんだが、言えなかった場合と言えた場合にそれぞれどうなるか教えてくれるか?


「言えなかった場合は即死刑よ。言えた場合はあたしの気の済むまでいたぶった後にまだ生きてたら死刑よ」


 どっちも死刑じゃないか!いや、分かったぞ!


「沈黙…それがこの場で生き残る唯一の答ゲフゥ」


「やっぱり忘れていたわね!!!死刑よ」


 ストップ!!!ストップ!!!待て待て、人間の腕はその方向には曲がらねえから!!!ノー!ノー!ギブギブ誰かヘルプミー!


「あら涼宮さん、楽しそうね」


 いきなり女の声が降ってきた。軽やかなソプラノ。戻らない方向に曲げられつつあった腕に加わる力が止まった。天使の声かと思ったね。見上げるとうちのクラスの委員長が笑顔で俺たちを眺めていた。

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