第11話

「本来の歴史では、俺はどういう話をして髪を切らせるように仕向けたんですか?」


 聞いといてなんだが、本来の俺はどうやら相当口がうまいやつのようだな。


「さぁ…あ、禁則事項です」


 今この人「さぁ?」って言ったぞ、首傾げながら。さては知らないな?タイムテレビみたいなのはないんですか?


「禁則事項です」


 禁じられた何かなのだろうか。さて困ったぞ。最初から詰んでしまった。せっかくなので指示書を読み返してみる。さっきは気が付かなかったが、読んでみると二つ目も自発的に団を作れと書いてあった。なんだ、団って。んん?


「みくるさん、この三つ目にある『長門有希』っていうのは誰ですか?」


「えっ?あぁ、長門さんは文芸部にいる女の子です。彼女もあなたの力になってくれるはずです」


 つまりお助けキャラか。そういうのは最初に教えて欲しい。じゃあ順番変わっちゃいますけど助けてもらいに行きましょう。一番簡単そうだし。しかしみくるさんは首を振った。


「それはだめです。まだ長門さんと出会うときではありません」


 そういうものなのか、残念。じゃあこの一つ目について、みくるさんが知っていて何かヒントになりそうなものとかありますか?どんなことでもいいんで。


「そうね…確か、入学当初から髪を切るまでは頻繁に髪型変えてたって」


 まあ奴も女子ですし、寝癖を直すついでに気まぐれでも起こしたんでしょう。他にありますか?


「うーん…あ、一つ目じゃなくなっちゃうけど、キョンくんが長門さんに話しかけた言葉なら分かるかも」


 おっ、いいじゃないですか!お助けキャラを呼び出すワードがあるんですね。どういった話ですか?みくるさんはえぇっとと思いだすようにしてポケットから便箋をとりだして書き始めた。


『何を読んでんだ?』

『面白い?』

『どういうとこが?』

『本が好きなんだな』

『そうか……』


「えっと、俺がこれを言ったんですか?その、長門さん?とやらに」


 確かに俺が言いそうなセリフかもしれないが、どう考えても話が弾んでいる場面のようには見えない。なんだ?俺は周りに独り言を吐く狂人なのか?


「うん、長門さんがそう言ってたから間違いないわ」


 断言されてしまった。いや、もしかしたら俺がたじろぐようなマシンガントークをする快活な女子生徒かもしれない。長門さんは何て答えたんですか?


「さぁ…キョンくんが言った言葉しか教えてもらわなかったの」


 んん?待て待てどういうことだ?みくるさんは俺と長門さんとやらが会話しているのを横で聞いていたのではないのか?


「あ、わたしはその時の様子は直接見ていなくて、長門さんがキョンくんが最初にした会話だって教えてくれたの」


 どういう状況なのかさっぱり見えてこない。なんで俺との最初の会話をわざわざみくるさんに話した?どういうキャラクターなんだ、長門さんとやら。


 なんてことを言いつつ色々と話を聞いていたが、ヒントになるようなことは特になかった。さて、いよいよ困ったぞ。どうすれば奴に自発的に髪を切らせられる?俺は泣く泣く柄にもない歯の浮くような台詞を便箋に書き出し、それをみくるさんに見てもらったのち、不安しか覚えずその時が来るのを待った。失敗はできない。が、成功する気が全くしない。このままやってこなければいいのにと思い始めた頃、ようやく坂の上から奴が下りてきた。奴、そう、つまり、ええと、その、あれだ。振り返るとみくるさんの姿はいつのまにか消えていた。


「あいつ、何て名前だっけ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る