第13話

「これが楽しそうに見える?眼科か頭の検査をした方がいいんじゃない?」


「あ、朝倉委員長?いいところに来た。悪いが助けてくれ…」


「何よあんた、あたしの名前は覚えられなくても他の女子は覚えてられるの?へぇーそう」


「!?待て待て、たぶん面倒な方向に勘違いしている、タイムタイム!一旦落ち着け!ノー、折れる折れちゃう!!!」


「あらあら…」


 三者三様に、といえばそれっぽいが、ようはそれぞれが好き勝手に動いていた。何より朝倉委員長は全然助けてくれない。


「だって、状況が全然分からないし。涼宮さんがやむを得ない事情があるのかもしれない」


 事情は後で話すからとりあえず助けてくれ!俺はコイツに話しかけただけだ!


「コイツじゃなくて涼宮ハルヒ!人の名前を覚えないだけでも腹立つのに何なのよ一体」


 朝倉委員長は場違いなほどのほほんと俺たちを眺めたのち「あ、分かった」と呟いた。分からなくていいから助けて…。


「涼宮さん、彼が名前覚えてくれなかったら怒ってるのね。なのにわたしの名前は覚えてたから拗ねちゃってるんだ」


「はぁ…?」


 腕にかけられていた負荷が急になくなった。


「なんであたしがこのバカ相手に名前を覚えられてなかったぐらいでイラつかなきゃいけないのよ」


「あら。けど、客観的に見てそうとしか思えなかったんだけど。違う?」


 そう言って朝倉委員長はくすくすと笑った。そうだったのか…今俺が痛めつけられていた理由は奴の名前を覚えていなかったから…か?


「あー、もう嫌。最悪な気分だわ」


 俺を一瞥した後フンと鼻を鳴らしてすたすたと歩いていった。


「大丈夫?」


 そういいながら朝倉委員長は俺を見たのち、奴が歩き去るのを少し残念そうな顔で眺めていた。助かったよ。俺は腕を伸ばしながらお礼を言った。


「あら、わたしは見たままを彼女に伝えただけよ?」


 そういうことにしてくれるならもう一度言っとくけど、本当に助かった。ありがとう。俺は頭を下げた。朝倉委員長は珍しい生き物をみたような表情を浮かべていた。


「さて、追いつけるかな」


「呆れた。まだ諦めてないの?」


 いや、正直もう嫌なんだけど、そうも言ってられない理由があってな。


「ふぅん」


 じゃあまたな!そういって走り出したとたんに「待って」と声がかかった。


「念のため聞くけど彼女の名前は思い出した?」


 おっと、そうだった。えぇと、確か鈴森…じゃなかった、涼宮、涼宮ハヒ…じゃなかった、涼宮ハルヒだ。朝倉委員長がにっこりと両手で〇を作った。ありがとよ。また殺されるところだった。おれは涼宮の後を追いかけた。

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