第3話

 基本的に休み時間に教室から姿を消す彼女はまた放課後になるとさっさと鞄を持って出て行ってしまう。最初はそのまま帰宅しているのかと思っていたらさにあらず、あきれることに彼女はこの学校に存在するあらゆるクラブに仮入部していたのだった。結局どこにも入部することはなかったそうだ。ある意味、流石ともいえる。


「何か面白い部があったら教えてくれよ。参考にするからさ」


 おれはまた後ろの席に座る彼女に話しかけた。まあ期待薄であろうがな。


「ない」


 即答だった。


「全然ない」


 なるほど、クラブ活動によって宇宙的未来的(以下省略)な存在に遭遇するという俺の目論見は、早くも期待外れなものとなりそうだった。


「高校に入れば少しはマシかと思ったけど、これじゃ義務教育時代と何も変わんなわね。入る学校間違えたかしら」


 それはそうであろう。しがない県立高校に来た時点で望み薄だ。かといって、我が家の郵便受けにフクロウからの入学許可証は届かなかったのでは仕方がない。学外に活躍の場を求めなければならないだろう。


「なあ、最後に教えておいてほしいんだが、そこまで未知との遭遇にこだわる理由はなんなんだ?」


 この点は結構重要で、その答え次第ではこいつとの会話に意味がでてくる。俺の問いかけに、ハルヒはあからさまにバカを見る目をして言い放った。


「そっちのほうが面白いじゃないの!」


 そのとおりである。つまり、こいつは俺と同じタイプの人間だ。ただ、考えたことは全部行動にしていくタイプである。となれば、次の行動は決まっている


「その活動、俺も手伝う」


 ハルヒはあからさまに疑うような目で見下してきた。


「何よそれ。ナンパのつもり?ケータイ番号が欲しいならそういえばいいじゃない。回りくどいことする奴は嫌いなのよね」


 いや、正直そのつもりは全然ない。が、言われてみれば今のは確かにナンパに見えたかもしれない。けど、俺としては俺はお前のことは別に興味がなくて、お前の近くにいれば、何らかの不思議体験に近づけそうな気がするってだけだ。


「ふーん、あっそ。まあそういうことにしてあげるわ。けど仲良くするつもりはないからそのつもりでね」


 言うだけ言うと、ハルヒはまたそっぽを向いた。まあ俺としては仲良くできればそれに越したことはないのだが、とりあえずこいつの動向を追えるだけで十分だ。こいつについていけば、何か面白いことが起こる、という俺の中の第六感がそう告げていた。


「じゃあ、よろしくな。田中」


 俺がそういうと、彼女がガクッと頭を落とし、突如顔面パンチを放ってきた。


「誰が田中よ。あたしは涼宮ハルヒ!名前を間違えられたのは生涯で初めてだわ」


 そうか、田中ではなかったか。今度呼ぶときは間違えないようにしよう。

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