第2話

 とまあ、そんな彼女のことは置いておいて、特に何もないまま一週間が経過した。そのころには昼休みになると俺は中学が同じで比較的仲のよかった国木田と、たまたま席が近かった谷口という奴と机を同じくして飯を食うことにしていた。


 後ろの席のやつの話題が出たのはその時である。


「お前の後ろの席にいる涼宮って女、中学で三年間同じクラスだったからよく知っているんだがな、あいつの奇人ぶりは常軌を逸している。高校生にもなったら少しは落ち着くかと思ったんだが全然変わってないな。聞いたろ、あの自己紹介」


 後ろの席のやつは田中ではなかったのか。俺は頭の中の消しゴムでクラスメイトの名前を書き換えようとしたが、国木田が口を挟んだことによりいったんその思考を止めた。


「あの宇宙人がどうとか言うやつ?」


 宇宙人?なんだそれ、初耳だぞ。


「そ。中学時代にもわけの解らんことを言いながらわけの解らんことをさんざんやり倒していたな。有名なのが校庭落書き事件」


「あれか」


 たしか都市伝説特集で取り上げられていた。その時のことを思い出したのか谷口はニヤニヤ笑いを浮かべた。


「石灰で白線引く道具があるだろ。あれで朝学校来たらグラウンドに巨大な丸とか三角とかが一面に書きなぐってあるんだぜ。で、こんなアホなことをした犯人は誰だってことになったんだが……」


「その犯人があいつだったてわけか」


「本人がそう言ったんだから間違いがない。結局何がしたかったのかは分からずじまいだってこった。一説によるとUFOを呼ぶための地上絵だとか、あるいは悪魔召喚の魔方陣だとか、または異世界への扉を開こうとしてたとか、噂はいろいろあったんだが、とにかく本人が理由を言わんのだから仕方がない。今もって謎のままだ」


 ところで今教室にその彼女はいない。弁当を持ってきていないらしく、おそらく食堂を利用しているんだろう。


「でもなぁ、あいつモテるんだよな」


 谷口はまだ話したりないらしく、何か色々喋っていたがそんなのは後回しだ。俺は彼女が帰ってくるのを待つことにした。授業開始のチャイムの直前に帰ってきたので俺は少し急ぎめに話しかけた。


「なあ」


 と、俺はさり気なく振り返りながらさりげない笑みを満面に浮かべていった。


「しょっぱなの自己紹介、もう一度聞かせてもらえるか?」


 腕組みをして口をへの字に結んでいた彼女はそのままの姿勢でまともに俺の目を凝視した。


「なによ、あんた宇宙人なの?」


大真面目な顔で訊きやがる。


「……違うけどさ」


「違うけど、何なの」


「どのぐらいの成功率なのかなって」


 ジト目だった目がジト目具合をさらにマシマシさせて睨み付けてきた。


「成功率って?あたしの目の前にやってきたやつが宇宙人だったことの確率を訊いているわけ?」


「そうだ。一度くらい何かなかったのか?学校の校庭落書き事件のあととか」


 答える代わりにはぁとため息をつかれた。


「ないわ、一回もない。ゼロよ。あたしの今までの成果はまだ出ていない」


 俺も答える代わりにはぁとため息をついた。やれやれ、そこまでしても収穫はないのか。現実ってやつはやっぱり厳しい。投げやりにつぶやく俺の顔のどこがどうなのか、彼女は気に入らなさそうなしかめ面でこちらを見つめ、俺が少しばかり精神に不安定なもんを感じるまでの時間を経過させておいて、


「あたし、あんたとどこかで会ったことある?ずっと前に」


 と、訊いた。


「いいや」


 と、俺は答え、会話は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る