第51話

「情報制御レンジ拡大。攻性情報展開。ターミネートモードへシフト。パーソナルネーム長門有希の排除を目的とした限定空間内での局地的疑似戦闘許可を申請…エラーのため事後申請に切り替え…有効」


 朝倉委員長が呪文のような何かを長々と唱えた、と思った途端、教室だった周囲の光景が粉々に砕け散った。


 いや、そもそも少し前から俺の教室は姿を変えていたようだ。たぶん、長門さんが吹き飛ばされる前に片手を上げて何か呪文を唱えていた時だろう。教室の中はネズミ色に染まっていた。


 鉛筆で描いた風景画をモチーフにしたジグソーパズルをバラバラにしたように、周囲の光景が一変し、その外側にあったものが姿を現した。ドアがない。窓もない。教室の壁は、色も相まって塗り壁のようだった。


「…展開済みの構成情報を上書きされた」


「この空間を完全に掌握したわ。先行して展開されていた構成情報には崩壊因子を仕込んで相殺させてね」


 長門さんが朝倉委員長から距離を取るように後ろへ下がろうとするが、床から柱のようなものが突然生えてその退路を妨げる。長門さんがその柱に触ると柱は形を矢のように変え、即座に朝倉委員長へ向けて長門さんが投げた。


「無駄よ」


 投げられた矢のような何かは朝倉委員長の手前で急に方向転換をすると長門さんの方へと戻っていった。長門さんは両手でそれに触れると、音もなく砕けて粉塵になる。ほっと息をいれる間もなく、天井や左右の壁から柱…先程より随分細く、箒の棒の部分くらいのものが長門さんの周りを囲うように覆った。長門さんがそれに触ると矢と同じように消えるが、長門さんが消すより新しく生えてくる細い柱のほうが早く、あっという間に長門さんは鉄格子に閉じ込められたような姿になった。


「これで文字通り手も足も出ないでしょ?」


 朝倉委員長の両手が静かに上がり、俺の見間違いでなければ、指先から二の腕までがまばゆく光り始めた。長門さんはというと、両手を使って自分を囲っている細い柱を消しているが、また新しく生えてきた分でこちらからは半分以上姿が見えなくなっている。


「やめろ!それ以上は駄目だ、朝倉委員長!!!」


 触手のようにのたくりながら勢いよく伸びていた朝倉委員長の腕が、長門さんが閉じ込められているほんの僅か手前で止まった。

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