第50話
「ちょっ、えっ、えっ?」
朝倉委員長が泣く理由が全く分からず、俺は動揺した。俺がしたのは長門さんが宇宙人だっていう話をしただけだ。どこに泣くところがあった?朝倉委員長は涙を拭いながら口元を歪めてまるで自嘲するように笑った。
「…断ろうと思ってた。けど、なんでか気乗りしなくてさ。そっか、あたしキョンくんのこと、…」
よくわからないことを言い出した朝倉委員長の声は、途中までしか聞き取れなかった。何のことだかさっぱりわからないが、なんだかとても嫌な予感がする。
「あの、悪か…じゃなかった、ごめん!なんか嫌なこと俺言った?みたいで?」
俺が何か言おうと話しだしたその時、朝倉委員長の顔つきがありえないくらい厳しくなった。それこそ、顔のパーツってそんなに険しい表情にできるの?ってくらい、それはもうとんでもなく険しい顔で、教室の外を(扉は閉まっているので一見すると教室の扉を見ているようだが、明らかに教室の外にいる何かに敵意を向けるような雰囲気で)睨みつけていた。
カラカラと乾いた音が鳴り、誰かが教室の扉を開けた。その人物を見て俺はまたつばを飲み込んだ。
「・・・」
入ってきた長門さんは、俺と朝倉委員長を交互に眺め、朝倉委員長に向き直った。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ長門さん!これには訳が」
秘密を、例えば宇宙人の正体をバラした場合、秘密をバラした側がされる事と言えば、存在が消されるか記憶を消されるかだろう。どちらもゴメンだが、朝倉委員長まで巻き込みことになることに今の今まで気がつかなかった。が、何を思ったのか、このタイミングで朝倉委員長が長門さんにツカツカと近づいていった。長門さんは片手を上げ、高速で何か呪文のようなものを唱えた。
その瞬間、長門さんの体が教室の扉から窓まで吹き飛んだ。
そう、『長門さんが』吹き飛んだ。
目の前の光景を理解するのに十秒ほど時間がかかった。しかし、理解はしたが理解できなかった。何を言っているのか自分でも分からないが、俺や朝倉委員長ではなく、長門さんが普通の人間なら大丈夫じゃない勢いで吹き飛んでいた。
「情報の」
長門さんが吹き飛ばされた辺りの土煙の中から声が聞こえた。
「認識に誤りが認められる」
土埃が晴れると、五体満足な様子の長門さんがいた。よかったと一瞬思ったが、だからこそ今の状況がわからなくなった。
「今のあなたは冷静さを欠いている」
「誰のせいで…」
長門さんの方ばかり見ていて朝倉委員長の存在を忘れていた。俺の見間違いでなければ、朝倉委員長の体から黒いモヤみたいな何かが見えた。俺にスピリチュアル属性は残念ながらないはずなんだが。
朝倉委員長が近くにある勉強机を掴んだ。その途端に、勉強机が『槍のように形を変え』、突然長門さんの近くで爆発が起こった。俺はたまらず頭を手で覆ってしゃがみこんだ。
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