第5話

 席替えは月に一度といつの間にやら決まったようで、ハトサブレの缶に四つ折りにした紙片のクジを回して来たものを引くと俺は中庭に面した窓際後方二番目というなかなのポジションを獲得した。新しい自分の席で後ろを振り返ると、席替えの前と同じ奴、つまり鈴森が虫歯をこらえるような顔で座っていた。


「髪切っ…なんでもない」


 噛みつかれそうなふいんきを感じて会話を切り上げた。そんで放課後、俺はクールランニング部という謎な部活の見学に行こうかと考えたが、そういえば鈴森がこの学校にはろくな部活がないといっていたことを思い出したのでもう帰宅部でいいやとさっさと家に帰ることにした。


 その帰り道。


「キョンくん」


 俺を呼ぶ女性の声がした。振り返ってみても人影はなく、電柱の陰から手だけが出ており、おいでおいでという動きをした。


 はて、誰だろう。聞き覚えのない声ではあるが、どうやら俺を知っているらしいその声に誘われて、俺は電柱の裏を覗き込んだ。


「あの…」


 電柱の陰には一人の女性が立っていた。白いブラウスと栗のミニスカートをはいている髪の長いシルエット。


「はじめまして、になるのかな?」


 どうやらそうらしい。俺の記憶にはこの特盛胸子さん(仮称)ほどのナイスバディな女性と出会った記憶がない。どちらさまですか。


「うふ、わたしはわたし」


「あたしはわたぁし?」


「そうじゃなくて」


 聞き間違えたらしい。誰だろう。そんな俺は俺だみたいな話をされてもさっぱり分からない。特盛さんはもどかしそうに体をひねった。


「わたしが今ここで自己紹介をしてしまうと色々とまずいことになるのでできないのだけど、わたしたち全員にとって、とても困ったことになったので無理を言ってまたこの時間に来させてもらったの。本当はいけないことなんだけど」


「イケナイことをするんですか」


「そうじゃなくて」


 違ったらしい、残念。……いや、待て。この状況は何だ?


「もしかして、宗教の方ですか?」


 こんな美人のお姉さんが見ず知らずの俺に声をかけるとしたら募金か宗教勧誘のどちらかしか思いつかなかった。募金箱を持っていないので後者と判断したのだが、その女性はそうじゃなくてと顔を横に振った。


「もう仕方がないので言います」


 そういうと言葉を区切るように話し始めた。


「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」


 全世界が停止したかと思われた。

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