第42話

「待ってくれ。どこから間違えてたのか最初から考えたい。まず大前提として、長門さんは百合だよな?」


「違う」


「嘘だ」


「信じて」


 長門さんは見たこともないほど真摯な顔だった。いや、そもそも長門さんの顔をまともに見たことの方が少ないんだけどさ。


「じゃあ何で俺はここに呼ばれた?」


「先程から説明しようと試みている」


 そうだっけ。記憶にないなぁ。というか、俺間違えたテストの解説聞くの好きじゃないんだよなぁ。そんなことを思っていると、長門さんはとんでもないことを言い始めた。


「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし」


「……ちょっと待って」


 長門さんがまた口を開きかけたので制止した。一応確認するけどさ、今言ったこと、俺がちゃんと理解できると思って喋ったわけだよね?そう尋ねると、長門さんはしばらく固まったのち、頷いた。そっか…。


「たぶん聞き取れなかっただけな気がするから、もう一度もっとゆっくり言ってくれる?一文字一文字区切るというか、ぜんぶひらがなで言うみたいにさ」


「こ・の・ぎ・ん・が・を・と・う・か・つ・す・る・じ・ょ・う・ほ・う・と・う・ご・う・し・ね・ん・た・い・に・よ・っ・て・つ・く・ら・れ・た・た・い・ゆ・う・き・せ・い・め・い・た・い・こ・ん・た・く・と・よ・う・ひ・ゅ・う・ま・の・い・ど・・・い・ん・た・あ・ふ・ぇ・い・す・。そ・れ・が・、わ・た・し」


 長門さんは俺の言ったとおり言い直してくれた。なんとなくわかった気がする。もう一度、今度はちょっとカタカナで言ってみてくれ。たぶんそれでわかる気がする。長門さんは少しの間固まっていたが、再度口を開いた。


「コ・ノ・ギ・ン・ガ・ヲ・ト・ウ・カ・ツ・ス・ル・ジ・ョ・ウ・ホ・ウ・ト・ウ・ゴ・ウ・シ・ネ・ン・タ・イ・ニ・ヨ・ッ・テ・ツ・ク・ラ・レ・タ・タ・イ・ユ・ウ・キ・セ・イ・メ・イ・タ・イ・コ・ン・タ・ク・ト・ヨ・ウ・ヒ・ュ・ウ・マ・ノ・イ・ド・・・イ・ン・タ・ア・フ・ェ・イ・ス・。ソ・レ・ガ・、ワ・タ・シ」


「なるほど、つまり長門さんは宇宙人なんだな」


 俺の返答に対して、長門さんは目を見開いた後、なんだかとても不満そうな顔をした。「ーーそれはな長門さん。感情ってヤツなんだよ」などと言ったら、次に生まれるであろう感情によって俺は撲殺されるような気がしたので口にはしなかった。というかちょっと待て、なんで俺は正解したのに長門さんは不満げなんだ?やっぱり俺じゃわからないだろうなと思いながら説明したんじゃないのか?それを言おうとすると、先に長門さんが口を開いた。


「なぜ、そう思ったの」


「まぁ、話し方かな」


 俺が言わせたんだけどさ。しかし、宇宙人ときたか。長門さんの左右の手をそれぞれ俺と涼宮で掴んでいるいる光景を想像したが、宇宙人と人間というより複雑な三角関係の高校生としか見えなさそうだ。


「面白い人」


「俺からすれば、長門さんのほうが面白いと思うけどな」


 さて、これで今日俺がここに呼ばれた理由が判明した。長門さんが自分が宇宙人だと告白するためだ。そしてここからが重要なのだ。彼女が本当に宇宙人なのか、はたまた宇宙人を自称する不思議ちゃんなのか。たぶん不思議ちゃんだと思うけど、みくるさんのこともあるし、話だけでも聞いてみよう。

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